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Prolog 問題
生温い風が頬を掠めていく。
それに合わせて、目の前に見える木々が揺れた。
私、画家の東雲忠はパレットを置くと両手を後ろに伸ばす。座りっぱなしだった体に心地よい刺激が流れた。
イギリス南東部、プラックリー村。
ロンドンの喧騒から離れたここで聞こえるのは自然のざわめきだけ。
自然の郷のような場所で育ったからか、
雄大な緑に囲まれると落ち着く。
ただ1つだけ気に入らないのは、重苦しい曇天の空。
日暮れ時ということもあって辺りは薄暗い雰囲気に包まれている。
「もっとこう・・・晴天の鮮やかな空を描きたいんですよねぇ、」
いつまでたっても太陽の覗かない空はイギリスらしい。
一向に進まない筆に、今日はもう終わりにしてしまおうと決めた。
「だってほら、一雨来そうですしね!」
なんとなく罪悪感を感じて、自分で自分に言い訳をする。
何をするにも自由な筈だ。なのに誰かに責められてるような気がして仕方がない。
重圧感のある木々がひしめくように描かれたキャンパスを乾かす。
予想以上に暗い雰囲気の絵になってしまったから、せめて空は明るくさせたいのだ。
ふと、前を向く。
木々が鬱蒼と生い茂っている。今描いている絵のモデルだ。
その森の名はデリング・ウッズ。
ロンドンから馬車で一時間程の場所にある森だ。
鬱蒼とした森を見つめていると、どうにも重苦しい雰囲気が伝わってくる。
何がやって来るような___
私が呑まれてしまうような___
「きれいな絵ですね。」
「っえ」
急に耳元で聞こえた声に驚いた。
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