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それから数時間がたった深夜。
自室に横に並べて敷いた二つの布団。
隣で泣きつかれた忠が眠っている。
敬は中々寝付けなかった。忠の横顔を暫く眺めてその寝息が規則正しいことを確認するとそっと寝床を抜け出す。障子を開けて縁側へ出た。
月だけがただ煌々と明るい。
悪夢でも見ている気分だった。
(···真か)
彼はいつから真実を眺めていたのだろう。飄々とおどけた性格の裏でいつから自分のこと、そして裏辻のことをを恨んでいたのだろう。
(自分は勝手に何でも話せる友人だと思っていた。)
だってずっと隣にいたから。
然し裏切られた、という感覚はしなかった。
不思議と怒りも湧いてこなかった。
代わりに湧いてきたのは自分に対する呆れだった。
何も見えずに、見ようともせずに父親が教える事実を、見せる景色を信じていた。
ふと真実、という言葉には真の漢字が入っている等と考える。
真から教わる真の事実、なんて掛けことばが頭に浮かんだ。
(真実を見抜く聡明な真、盲目的に尊敬する愚鈍な敬。嗤っちゃうな。)
敬は何もかも馬鹿らしくなってケタケタと笑い出したくなった。
そうすることで誰かが、これは悪い夢だと肯定してくれる気がした。
無論そんなことはないのだが。
気が狂ったかのような笑い声だけが夜の庭に響いて、虚しさだけが敬の心を占めた。
そういえば、と敬は思い出す。
真は昔から騒いで軽口を飛ばすタイプだった訳ではない。
以前はもっと静かで、うつむきがちだった。
幼少期はそんな彼を引っ張って遊びに誘っていた気がする。
(いつから真は変わった?)
先ほどの真の口調だと、真はもう何年も前から禁忌のことを知っているようだった。
『庸助さんとは、もう会えないのですか?』
『私にとっては···庸助さんという陽気で心の優しい大人なんです』
次に頭を過ったのは、さらに真と会う前に遡った目覚めたばかりの忠との会話だった。
あれだって、今日の真の話と総合すれば辻褄が合う。自分はあの時何と言っただろうか。意識が混濁してるとまともに取り合わなかったのではないか。
「······子供の方が案外聡明だったりするんだよなぁ」
何もかも知らない自分に嫌気が差した。
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