呪いの洋館と呼ばれるまで

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眩い光が消えて恐る恐る目を開ける。 広がっているのは先程と対をなす光景、どこまでも続く圧倒的な闇だった。  その暗闇の中に自分の体が浮かんでいる。  何も見えない。何も聞こえない。 叫んでみたはずなのに自分の声すら聞こえない。 でも不思議と恐怖は感じなかった。 何故なら直感で分かったからだ。 ここは兄さまの手鏡の中だと。 そしてもう一つ、私は決して傷付けられることはないということ。 それはこの空間を信じ、受け入れるには十分な要素だった。 最も頭で理解していたとしても、鏡の中というのはかなり奇妙な感覚だが。 暖かくて柔らかい。でも目を開けてもそこは得体の知れなさを内包しているだけ。そんな暗闇。 強いて言うなら羊水の中はこんな感覚なのかもしれない。 ふと思い出す。 私はこんな体験を以前にもしたことがあった。 あれは蔵に閉じ込めれる前、まだ幼い頃。 そうだ、庸助さんの過去を見たときだ。 現実味のない奇妙な体験だったから、私はずっと夢だと思っていた。 いや、私は思い返す。何も最初から夢だと一蹴した訳じゃない。 誰かが怖い夢を見たんだねと諭したから、そう思ったのだ。でも今、夢を見ているという感覚はない。 じゃああの日の見た庸助さんの過去も、夢じゃなかった? 大切な何かを掴むまであと一歩な気がする。 しかし思考に浸れたのはそこまでだった。 突如、遠くで何かが淡い光を放つ。 周囲の暗闇も相まってそれは宇宙に浮かぶ一つの恒星のようだ。 もしくははるか彼方の宇宙空間から眺めた銀河もこう見えるかもしれない。 近づいてくる光の中にさっき見えた庭が写っていた。 光が大きくなってきてあることに気が付いた私は目を丸くする。 庭の先にあるのは、私達が閉じ込められている洋館だった。でも、今とは全く違う。手入れの行き届いた外観、おそらく人が住んでいた頃の洋館。 私が驚いてる間にそれは巻物のように動き出した。そして飲み込まれていく。
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