▶回想録◀Japan

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 異形の気配。それが分からない人の方が世の中は圧倒的に多いらしい。かなり幼少の頃から、気配を感じれた敬にとってそれは不思議なことだった。知らなかった頃の感覚など、もう思い出せない。  彼らは人に化け、本物の人間の生気を吸うことでより力を得る。人に化けれない異形もいるがそれらは化ける程の力量がないので問題はない。  問題は人に化けて生気を喰らおうと虎視眈々と狙う者だった。  一般的に生気を吸われた人間は少量の場合、気絶。異形の力が強すぎると、最悪の場合死んでしまう。敬たち裏辻(うらつじ)家はそんな異形を狩る一族だった。  月明かりが照らす夜道を歩く。もう少し仕事があると言って父は何処かへ行ってしまったので、一人で帰路を辿っていた。父はいつもそうなのだ。明日も郷学校があるだろうと、敬を途中で帰らせ、本人は何時も明け方まで仕事をこなしている。 (父だって昼の間も忙しいくせに······)  少しだけモヤモヤして敬は路傍の石を蹴り上げた。父はよく敬を誉めるが、決して仕事を一任させてはくれない。まだ14歳だから端から見れば仕方のないことかもしれない。でも、早く認められたい少年からするとそれはとても悔しいことだった。  自分の理想と現実がなかなか噛み合わない。力量が足りないのかと省みては、葛藤する。それは父の事を尊敬しているから。早く追い付きたいという気持ちの裏返しでもあった。  立派な屋敷が建ち並ぶ一角を曲がる。屋敷の塀が道路の両側に続いている。その塀も壁の上に茅葺きの小さな屋根が載った立派なものだった。  塀の上から覗くのは立派な杉尾、松。どれもみな色が濃く、闇に溶けきっている。裏辻と書かれた門の前で立ち止まる。女中など大半はもう寝てしまっている時間帯だろう。極端音を殺して門を開いた。  敬も早く自室で休もうと思ったが、一つ、障子から煌々と灯りの漏れる部屋があった。
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