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母の記憶
父が働けなくなって、それまでは農家仕事をしながら家事をしていた母が働きに出た。
瓦の工事だ。
夏は暑く冬は寒い。
朝からお弁当を持って、迎えの車に乗って仕事に行く。
帰りは夕方6時くらい。
バイクにも乗れない母の仕事先は、そこしかなかった。
汗水垂らして働いても、お給料なんてしれている。
そのうえ、弟の先天性の病気が見つかり、すぐに手術をしないと長く生きられないと診断を受けた。
母は祖父に頭を下げて、弟の手術代を肩代わりしてもらった。
孫の手術代ならば、黙ってても出してくれそうなのに。
ましてや弟は、やっとできた男の子。
私や妹と違い、祖父母には溺愛されていたのだから。
それでも、母はほとんど土下座のようにして手術代を肩代わりしてもらっていた。
弟の手術、障がい二級の診断を受けた父のこと、私と妹のこと。
そして本家の嫁としての親戚関係。
母も時たま、夜空を眺めていることがあった。
「きれかねー、おそろしかごたっ」
(綺麗だねー、おそろしいくらい」
妹が就職し、私が結婚して間も無く、祖父が亡くなった。
その直後、母は家を出た。
きっと色々あり過ぎたのだ。
年老いた祖母と、自分では生活できなくなった父と、手術は成功したがひどいイジメを受けて鬱になってしまった弟を残して。
頼ったのは、ある宗教団体だった。
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