おまけ

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おまけ

 窓際の端から3番目。数年前から私はこの席がお気に入り。窓のすぐ向こうに桜の木が立っていて、少し目線を外に向けるだけで満開の桜を眺められる。この季節、お花見に最適な特等席。空の青に桜のピンクがよく映える。色をそのまま絵の具にしたくなってしまう。まるで絵葉書のようなそこからの景色は、毎年春が楽しみな理由。静かにゆっくり時間が流れる。お気に入りの場所。  その日、いつもの席に先客がいた。同い年くらいの男の子。館内で何度かすれ違ったことがあるから、なんとなく顔を覚えていた。そこは私のお気に入りだったのに。先を越された。しょうがない。今日は他の席を探そう。諦めてその場を離れようとしたとき、その人は顔を上げて窓の外を見上げた。そして、笑った。あんまり優しく笑うから、思わず見入ってしまった。そうか。その席からの景色がきれいなことを、その人も知ったんだ。窓の隙間から風が吹き込んで、桜の花びらが数枚舞い込んだ。花びらを目で追ったその人と、目が合った。合ってしまった。立ち上がったその人は、右手で髪を指差した。 「あの、ここ。」 何か付いているのかと慌てて指で髪をすくと、小さな花びらがひとつ、手のひらに転がった。きっとついさっき窓から舞い込んだうちの一枚。 「桜、きれいですね。」 その人の言葉に、窓の外を見た。花びらたちは、今日も空を舞う。澄んだ青に、散りばめられた薄ピンク。毎年見て、毎年思う。 「きれいですね。本当に。」 また目が合って、数秒間の沈黙の後、何がおかしかったのか、どちらからともなく吹き出した。  いつも通りの休日。通い慣れた図書館。でも、何かがちょっと違う。なんとなく、素敵な春になる予感がした。数年前から知っている景色の中に、昨日まではいなかった人。その人はまた、優しく笑った。
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