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僅かな期待を胸に僕はテレビに近づくが、うっかりガラスの破片を踏み、声を上げてしまった。
横で肉の塊が動き、濁った眼を開けて僕を睨む。2日前にこの男に蹴られた背中の痛みがぶり返し、僕は慌てて玄関に向かった。
『住民からの強い要望で、水道局は早急にウミシカを――』
居間のテレビからそんな言葉を聞いたような気がしたが、期待するあまりの幻聴かもしれない。僕は振り返らずに外に飛び出した。
公園に行ってみよう。健人たちがいるかもしれない。
――カイリ。
名前を呼ばれた気がして振り向くと、公園の入り口にあの子がいた。ビニール傘を差したままじっと僕を見る。
マユラ。
でも彼女の声であるはずがない。マユラは喋れない子だった。
施設で一緒に過ごした1年間、ずっとそうだった。
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