37人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
今の学校の友達には内緒だけど、僕は3年生の夏から4年の夏まで、マユラがいる養護施設にいた。父親が暴れて僕に怪我を負わせ、母さんは庇ってもくれず、そのままどこかに逃げてしまったから。
僕は母親が戻って来るまでの1年、マユラと過ごした。
マユラは捨てられた子だった。ずっと施設で育ち、そして今も施設にいる。
擁護の先生たちには大事に育てられていたが、あの子の本当の苦しみを知っているのは僕だけだ。僕はあの子がある日、施設長に引っ張られ、資料倉庫に連れ込まれるところを見てしまった。
なんだろう。好奇心。胸騒ぎ。異様な物音。ガラス越し。カーテンの隙間――。
僕は、自分の見てしまったものが信じられなくて、ただ固まった。
施設長は20分後に何食わぬ顔で出てきて、事務所に戻って行った。けれどマユラは出てこない。周囲を警戒しながら倉庫に入り、机の上に人形のように座る小さな背中にそっと声をかけると、そのまま彼女は失禁した。
震える肩を抱いて誰にも見られないようにトイレに連れて行き、きれいに拭いてあげた。「何度もこんな事されてるの?」と聞くと、マユラは小さく頷いた。
「今度何かあったら、僕のところに逃げておいで。守ってあげる」
小さな手が、驚くほど強く僕の手をぎゅっと握る。
僕は少しだけ勇者になった気がした。
けれど違う。
暴力は、元を断たないと自然に収まってくれたりしない。
そんな事、自分の家を見れば分かる事なのに。
「カイリ!」
耳元で健人が僕を大声で読んだ。はっと振り返る。
最初のコメントを投稿しよう!