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「なんだよ、さっきから何度も呼んだのに。公園で突っ立ったまま気絶してたんか?」
僕は首を横に振る。振りながらマユラを探したが、もうどこにもいない。
「マユラは?」
「誰だよ」
「傘の子」
「そんなのどうだっていいよ、それより、速報見た? このあと6時からウミシカが稼働されるって。2年ぶりだな」
思わず健人の腕を掴む。
「それ本当? そんなに突然なの?」
「ちょうどいい感じの雲が出て来たんだって。今しかないって」
海鹿は新型人工降雨装置の名前だ。未発達の雲に向けて、ヨウ化銀や化学物質を燃焼させた煙を噴射させ、雲の中で氷を結晶化させて雨を降らせる。
2年前の干ばつ時に初めて稼働され、3日間にわたって豪雨を降らせた実績があるが、その後は使われていなかった。
「ゲッ。うちの親がもう帰って来いって。海鹿の雨は体に悪いってさ。2年前のデマをまだ信じてんの。ダサすぎ」
健人は携帯を見ながら馬鹿にして笑ったが、素直にそのまま帰って行った。
優しい親なんだな。僕は健人を見送る。
あの雨は危険なんだ。
知ってる。
でも僕は、誰よりもそれを待っている。心から。
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