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上空にはうっすらと雲が漂うだけで、雨になりそうな雰囲気はない。
本当に大丈夫なんだろうか。
「カイリ!」
鋭い声で僕を呼んだのは母さんだった。
「早く家に戻って! お願いだから!」
そう言って走り寄り、僕の腕を掴んで引っ張る。
「どうしたの。まだ雨は降ってないよ」
笑って引っ張られるままに走ったが、母さんが僕を呼んだのは僕の為なんかじゃなかった。
家に帰って僕を待っていたのはあの男の拳だった。
寝ぼけて歩いてガラスの破片で足の指を切ったと喚き散らし、何度も僕を殴る。
「カイリが掃除するっていうから、お母さん、そのままにして出かけたのよね。そうよねカイリ」
ああ、そう言う事か。
僕は悲しみと情けなさを通り越して、笑いが込み上げてくるのを止められなかった。
「何がおかしい! 謝らんかクソガキ!」
投げて来たテレビのリモコンや湯飲みを交わしながら、僕は男を睨みつける。
自分の中にこの男の血が混ざっていると思うだけで死にたくなるが、今は死んでなんかいられない。
「謝るのはあんただ。いつまでもやられっぱなしの子供だと思うな! クズ」
初めて吐いた暴言だった。
男は顔を鬼のように赤くして掴みかかって来たが、ギリギリ交わす。
時計を見ると時刻はジャスト6時。どこか遠くからサイレンの音が聞こえた。
――ウミシカが稼働を始める合図だ。
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