あの止まない雨を待って。

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 捕まえられるもんなら捕まえてみろ。僕は大声で叫んで外に飛び出した。  空はまだ脆弱な雲しか無くて。僕の後ろからは、口から泡を吹きながら、男が追いかけてくる。  小さなころ付けられた膝の傷も、折れたまま固まった足の指の骨も、たばこの火傷も、蹴られた背中の痛みも、全部全部、僕の力になれ。もう僕はこんな弱い僕のままで生きるのにうんざりなんだ。  ――ウミシカ。2年前、マユラの中のバケモノを解放した、あの雨を降らしてくれ。 『カイリ』  全力で走る僕の脳裏にマユラの声がした。聞いたことが無いのにマユラの声だと確信する。喘ぐように振り向いた。白いシャツを着たあの日と同じマユラが僕を見つめる。  突如耳をつんざくような落雷の音。それと共に空の底が抜けたように雨が落ちて来た。一瞬の闇と轟音に包まれ、辺りはまるで荒れ狂う海の中だ。 「マユラ!」  立ち止まって叫ぶ。マユラが僕の胸に飛び込んで来た。小さな体を抱きしめる。  2年前と同じだ。ウミシカの雨。マユラと僕。ヨウ化銀の毒。追いかけて来る男。
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