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3.金髪ミサイル発射されました
どうやら気を失っていたのは、ほんのわずかだったようだ。
とはいえ、ギルドの人目につく部分に置いておくわけにはいかなかったらしく、小ぢんまりとした部屋に運ばれていた。
目を開けた瞬間、例のまぶしい金髪が目に入る。昨日は逆光で見えにくかったが、サファイアのような澄んだ蒼い目も綺麗だ。
「……――悪かった」
金髪のイケメンさんは神妙な面持ちで謝罪してきた。どうやらアイリーンになにか言われたようで、私が起きたら徹底的に謝罪しろと脅されたらしい。
昨日の感じだと、もっと高飛車な人かと思ったのだが、そうではなかったようだ……――いや、どう考えても悪いのは『ラテテイ』メンバーの方なんだけれどね。
[そう考える理由]
・私が攻撃できる手段を持ってなかった
・私が感謝の言葉一言もなしに文句を言った
・アイリーンが助けてくれたイケメンに殺意を持った
・そもそも私に戦闘力なかった
・私がギルドの中なのに大声で叫んでしまった
・アイリーンが助けてくれたイケメンに殺意を持った
・受け身なんて取れないのに、間に入っちゃった
・そもそも私が戦闘力なかった
以上のことを持って私たちが百パーセント悪いと断言できる。
「重ね重ね申し訳ありません」
私も頭を下げる。過去のことから謝罪すると、イケメンさんはお前に怪我がなければいいと言ってくれた。
いい人だ。魂までイケメンなのではと錯覚してしまいそうだ。
それから金髪イケメンさん――ジェイドというらしい――は寝ざめの一杯と称して薬草茶を私のために淹れてくれた。お礼を言って飲むと、爽やかな酸味が口の中に広がる。
まだ見る部分はあるはずなのに、もう魂までイケメン判定を下してしまいそうだ。
「お前は冒険者だったのか」
「まだ駆け出しですが」
お茶をしっかりと頂いたところで、ジェイドさんがそういえばと確認してきた。
そうだ、私は冒険者なんです。
十五歳から初めてかれこれ五年、スキル判定は職業・希少度・能力Cだけれど、心は冒険者なんです。
そう訴えると、ジェイドさんはふむと深く考えこんだ。なにか思うところでもあったのか。
しばらく考えてあと、紙を取りだした。いったいなんだろう。
そこにさらさらっとなにかを書きこんでいくジェイドさん。なにを書きこんでいるのだろう。
一通り書き終えたジェイドさんは、それを私に見せながら一言呟いた。
「お前のパーティ、『ラテテイ』だったか、かなりバランスが悪いな」
「バランス?」
ふむ。考えたことなかったが、ギルド職員さんに説明されるということはそうなんだろう。
そもそもアイリーン一人のフリーパーティが元だから、気にしたことはなかったな。ミミィ入れたのは彼女の『審美眼』スキルによるもので、「味方(私たち)に必要なもの」を見分けただけだ。どのように必要だったかなど、そこまではわかっていなかった。
「ああ。アイリーンとかという長命族、種族補正で後衛が適している。たとえある程度剣を扱えたとしても、少なくとも最前線では戦わないだろう」
「なるほど」
ジェイドさんの説明に納得いく。たしかにアイリーンは種族、長命族の習わしとして弓矢が得意という。そのかわり剣や槍はからっきしで近接戦闘はもっぱらミミィ担当だった。
「それに戦闘力皆無のお前という組み合わせ。そもそもお前の『洗浄』のランクでよく冒険者を志せたな。というか、あの長命族はいくら『審美眼』を使ったからといっても、よくお前をパーティに誘ったな。俺だったら誘わない」
目の前のイケメンさんは眉をしかめながら言う。
正しいからこそ、私は悔しかった。
「唯一パーティの長所として、銀色の猫耳族の戦闘力の高さを上げられるが、それでもパーティ全体では防御しかできない」
その言葉がぐさりと胸に突き刺さる。
事実だ。
何度も言うが、私には戦闘力はまったくない。
短剣を振らせてもらったこともあるが、ちょっとやばいこと(物理)になったので、それ以来、持たせてもらえない。
包丁と同じサイズ・形状だったのに。
そもそも冒険者たちが使うといわれていた武器自体、物理的に私には持てないのだ。なぜか私の腕力は常人以下なのだ。
これは小さいころからの経験でわかっている。
お父さんの武器工房を継がなかったのも、それが一つの要因。
だから、今、ジェイドさんに指摘されたことは正しすぎる。
私の戦闘力のなさは仕方ない。生まれつきなんだから、それ以上のばす余力はほとんどない。でも、それを補えるもの、腕っぷしの強い人を雇うという手段は残されているが、今までミミィ以外の女性冒険者を雇わなかった理由がちゃんとある。
「女性で戦闘力高い人っていないんですよねぇ」
「そうだな」
そう。
女性の攻撃系のスキルを持つ人は少ないのだ。
いたとしてもすぐに男性とのパーティを組んでしまったり、同じ故郷から出てきている人同士で最初から組んでたりしている。
私たちがそこに入りこむ隙間はないのだ。
「男性を入れるというのも嫌ですし」
実はこれ、アイリーンに聞いてみたことがあるのだが、意外なことに彼女が嫌がったのだ。どうやら男性に対してトラウマがあるらしく、『獣が』とか『不潔な生物』とか言ってたのよねぇ。
だから、男性を加えるという選択肢は残ってないのだ。
「ふむ」
ジェイドさんはしっかり考えこんでいたから、私は畳みかける。
「なので、しばらくこのままでいきます」
それが最善の方法なんだ。
そう思わないんですか?とジェイドさんを見ると、呆れたようにため息をつかれた。
「なんですか、そのため息」
「いや、見過ごせないなって」
ため息の原因を聞くと、意外な答えが返ってきた。
今までのギルド職員さんはそっけなく、『道中気をつけなよ~』とか『無理するんじゃないぞ』とかだったのに、この人は違った。
「見過ごせない?」
その言葉は私たちにとって、いや戦闘力を持たない私にとって嬉しいもの以外、なにものでもなかった。
「今までは比較的安全地帯を進んできたんだろうが、この先もそうとは限らんぞ」
「ですねぇ。でも、今はそれが最善なんで」
そうだ。
この国はまだ治安はいいが、ほかの国はそうとも限らない。だけれど、女性冒険者を加えるという選択肢をとることはできないのだ。だから……――
「いや、現段階で最善の方法ならばまだ二つあるぞ」
当事者である私にさえ思いつかないのに、どういうことだろうか。
「一つ目、俺が『ラテテイ』に入る。俺は前衛職に相当する。お前も見ただろうが、即戦力となる強さはあるはずだ。だから依頼のときは猫耳族と同じように最前線に放り込んでくれればいい」
おい。
前言撤回もんだ。こいつなんにも人の話を聞いてなかったな。人の話聞けとつかみかかろうとしたが、制された。まだ、なんか言いたいことでもあるのか。
「お前も言ったが、それだと見た目が悪い。だから、二つ目。俺がお前に剣の扱い方を教え、お前がお荷物にならないようにする。どっちがいいか?」
なるほぞ。『お荷物』扱いされたことには腹が立つが仕方ないことだ。それが事実なんだから。二人から言われたことはないが、事実そう思われてるんだろう。
仕方のないことだ。構わない。
「どっちを選ぶ?」
「圧倒的後者で」
「……即答なんだな」
選択肢があるのならば、そりゃ後者だ。
またアイリーンの鉄拳制裁でも食らいたいのかな(さっきは未遂だったけれど)。
「そりゃ」
即答した私にため息をつくジェイドさん。アイリーンのアレを思いだしたのだろう。じゃあ、まずと紙と私を交互に見る。
「ちなみに保有スキルは」
「……――――『洗浄』オンリーですが」
知ってるだろ? そう思ってジェイドさんを見ると、しまったという顔をしていた。
「じゃあ、やっぱりぜ……――」
頭を掻きながら、予定変更だなと呟いた瞬間、ジェイドさんの体全体が吹き飛んだ。
なにが起こったんですかね。
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