命の解放

2/11
121人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
自然に囲まれたその場所には、名前のない湖が存在した。 神聖な場所とされるその湖には、赤い鳥居が浮かんでいる。 町の人々はそこを水月(すいげつ)神社と呼んでいた。 月明かりが水面を照らした時、キラキラと反射した様子がなんとも幻想的らしいため、その名がついたとされていた。 そのまま水月湖(すいげつこ)という名前にしたらいい話なのだが、神社呼びが定着した湖には名前がなかった。 私は週に一度、学校帰りに必ずその神社に足を運んでいた。 「また雨…」 学校の校舎前、ギリギリ屋根がある位置で空を見上げると、分厚い雲に覆われた空はどんよりとしており、雨が降っていた。 私が神社のお参りに行く度、生憎の雨に見舞われる。 ほぼ100%と言っても過言ではない。 天気予報では“晴れ”となっていても、学校が終わる頃には雨が降る。 とことん天気に恵まれない私こそが、まさに雨女だった。 「あれー? キタガワさん、もしかして傘忘れたの?」 「マジ?カワイソー」 煩わしい声が耳に届き、思わず舌打ちをしたくなった。 今日は午後から雨だとわかっていた。 けれど私はあえて傘を持ってこなかったのだ。 「貸してあげようか?」 「キタガワさんには壊れた傘がピッタリじゃない?」 同じクラスメイトの女子二人が、クスクスと笑いながら私の行く手を阻む。 今日で何度目かなんて、もう数えない。 傘を待ってこない原因には、目の前の女子二人も入っているというのに。 「濡れて帰ればいいから」 一切二人に目を向けず、雨の降る空の下を歩く。 面白くない反応を不服に思ったのか、二人は背後から『チッ、つまんねぇな』と乱暴な言葉をぶつけてきた。 本当は傘をさして帰りたい。 けれど傘を持ってきたら、100%奪われてしまう。 嫌がれば余計に相手を楽しませるだけのため、もう傘を持ってくるのはやめた。 いつからだろう、私がイジメの標的になったのは。 私がカーストのトップに立つ女子の彼氏に、手を出したと噂が流れたのがきっかけだっけ。 そもそもアレは向こうから勝手に好意を抱かれただけだ。 けれど弁明したところで無意味だった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!