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自然に囲まれたその場所には、名前のない湖が存在した。
神聖な場所とされるその湖には、赤い鳥居が浮かんでいる。
町の人々はそこを水月神社と呼んでいた。
月明かりが水面を照らした時、キラキラと反射した様子がなんとも幻想的らしいため、その名がついたとされていた。
そのまま水月湖という名前にしたらいい話なのだが、神社呼びが定着した湖には名前がなかった。
私は週に一度、学校帰りに必ずその神社に足を運んでいた。
「また雨…」
学校の校舎前、ギリギリ屋根がある位置で空を見上げると、分厚い雲に覆われた空はどんよりとしており、雨が降っていた。
私が神社のお参りに行く度、生憎の雨に見舞われる。
ほぼ100%と言っても過言ではない。
天気予報では“晴れ”となっていても、学校が終わる頃には雨が降る。
とことん天気に恵まれない私こそが、まさに雨女だった。
「あれー?
キタガワさん、もしかして傘忘れたの?」
「マジ?カワイソー」
煩わしい声が耳に届き、思わず舌打ちをしたくなった。
今日は午後から雨だとわかっていた。
けれど私はあえて傘を持ってこなかったのだ。
「貸してあげようか?」
「キタガワさんには壊れた傘がピッタリじゃない?」
同じクラスメイトの女子二人が、クスクスと笑いながら私の行く手を阻む。
今日で何度目かなんて、もう数えない。
傘を待ってこない原因には、目の前の女子二人も入っているというのに。
「濡れて帰ればいいから」
一切二人に目を向けず、雨の降る空の下を歩く。
面白くない反応を不服に思ったのか、二人は背後から『チッ、つまんねぇな』と乱暴な言葉をぶつけてきた。
本当は傘をさして帰りたい。
けれど傘を持ってきたら、100%奪われてしまう。
嫌がれば余計に相手を楽しませるだけのため、もう傘を持ってくるのはやめた。
いつからだろう、私がイジメの標的になったのは。
私がカーストのトップに立つ女子の彼氏に、手を出したと噂が流れたのがきっかけだっけ。
そもそもアレは向こうから勝手に好意を抱かれただけだ。
けれど弁明したところで無意味だった。
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