命の解放

4/11
前へ
/11ページ
次へ
快晴の中でお参りに行った水月神社はとても綺麗で、水面に浮かぶ鳥居の向こうは別世界が広がっているのではないかと、子供ながらに思っていた。 一度行ったその景色が忘れられなくて、また行きたいと両親に駄々をこねていた。 そんな幸せだった家庭は、瞬く間に崩れていった。 私の両親は俗に言う『仮面夫婦』らしく、我が子も騙していたようだ。 そんな両親の仮面が剥がれたきっかけは、私の兄が非行に走ったことだった。 両親は互いに不倫相手がいた。 そして私の兄が、母親と不倫相手との間でデキた子供だったらしい。 昔は優しかった兄が冷たくなり、両親は家で笑わなくなった。 顔を合わせばすぐに口喧嘩だというのに、一歩でも外に出たらまた仮面夫婦へと変わる。 私はそんな家族が怖かった。 家庭崩壊と言っても過言ではないはずなのに、近所の人たちはその真実を知らない。 ただ非行に走ってしまった息子を持つ両親を哀れんでいた。 だからこそ余計に、イジメられていることは隠し通さなければならない。 周りの反応を気にする両親は私をひどく責めることだろう。 学校から自転車を漕ぎ始めて40分が経った。 家までは15分もかからないうちに着くため、40分の距離を漕ぐのはさすがに疲れてしまう。 ようやく“水月神社”という、所々黒く汚れた白い看板が見えてきた。 車が10台ほどしか停められない砂利で固められた駐車場の脇に、これまた5台ほどしか停められない駐輪場があった。 駐輪場は白いテープで区切られていたが、そのテープも剥がれていたりと古さが感じられる。 雨は止まないどころか、強くなっていく一方で、制服はすでにびしょ濡れだった。 茶色のベストも雨に濡れて濃くなっている。 本来なら帰るべきかもしれないけれど、私の足が止まることはなかった。 五段ほどしかない石段を降りると、葉の落ちた地面に足がつく。 水分を吸った地面の上を少し歩くと、足が沈んで気味の悪い感触が全身に伝わった。 この感触はいつまで経っても慣れないけれど、雨の中を歩くのはもう慣れた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

159人が本棚に入れています
本棚に追加