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ああ、いつまで私はこの苦しさに縛られるのだろう。
神様どうか───
この苦しみから解放させてください。
願ったところで、叶わない。
神様とはいえ、一人一人の相手をしている暇はないだろう。
だからもう少しだけ、時間の許す限りこの場所に居させてください。
神聖なこの場所だけは、誰にも邪魔されませんように。
願いを込めた後はいつも目頭が熱くなり、気づけば涙が頬を伝っていた。
「君はここへ来るたびに泣いている。毎度毎度、君に同情して雨を降らせる私の身にもなってくれないか」
空耳だと思った。
雨音にも勝る、優しさの含まれた男性を連想させる低い声だった。
もしかしたら人が来たのかもしれない。
けれどこのような雨の日に、お参りに来る人がいるのだろうか。
私が特殊なだけである。
「人間が神を無視するとはいい度胸だな」
「えっ…」
神?
一人称が“神”の人は初めてのため、思わず顔を上げる。
その声の主は、私の斜め後ろに立っていた。
とても美しい青年に、目を奪われる。
銀と白が混ざったような色をした髪は、私以上に長く腰の位置くらいまであった。
ライトブルーの瞳は私を捉えている。
カラーコンタクトにしては自然すぎるその瞳の色は、もしかすると本物かもしれない。
くっきりとした二重まぶたに、長い睫毛。
スッと通った鼻筋に血色の良い薄い唇。
太陽の光を浴びたことのないような白い肌は、どこか人間味がない。
瞳の色からして外国人を想起してもおかしくないというのに、彼が着ている紺色をベースにした和服はあまりにも似合っていた。
「先ほどから固まっているようだが、どうした?
突然私が現れて驚いただろう」
腕を組み、私を見下ろす彼もまた、傘をさしていない。
「すみません。生憎傘を持っていないので、貴方に貸すことができません」
おもむろに立ち上がった私は、頭を下げて謝った。
勝手に傘目当てだと解釈したからである。
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