命の解放

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「人前に姿を表すなど、果たしていつぶりだろうか。君があまりにも私の元に訪れるから、我慢できなくてね」 目を細めて鳥居を見つめる彼は、なんとも神秘的だった。 雨に打たれているはずなのに、彼に当たった雨は跡形もなく消える。 ああ、彼は彼と呼ぶには失礼なほどに美しい神様なのだ。 「ようやく信じてくれたのか」 どうやら目の前の神様は、心を読めるらしい。 口にしていない言葉も全部、届いているのだ。 「どうして私の前に現れたのですか?」 「私は君に同情しているのだよ」 目を細めて小さく笑う神様の目は、とても優しげだった。 「同情、ですか」 「ああ、そうだよ。その証明として君がここに来るたび、私はわざと雨を降らせているだろう」 「わざと…」 週に一度、水月神社に来る時は必ず雨が降る。 それは偶然ではなく、故意だったというのだろうか。 「それが原因で雨の多い町と言われているようだ。全く…君が苦しみに参って流す涙をから、私はつい誤魔化してあげようと雨を降らせる。それに雨が降れば参拝に来る人間はいないだろう」 「これまでの雨は、私のためだったんですか」 「もちろん初めは相手にしないつもりだった。だが君の流す涙があまりにも儚く綺麗でね、放って置けなくなった。君は雨が似合う、雨に濡れる君ほど美しい人間を見たことがない」 よく話す神様だった。 私を見つめる優しげな瞳に安心する。 美しいのは私ではなく、目の前の神様だ。 「君は苦しみから逃れたいと祈るのに、苦しみを与えられるものを排除しようとは思わないのかな?」 「排除、ですか」 考えたこともなかった。 解放されたいと思う一心で、仮面を被る両親や冷たくなった兄、私をイジメる人たちを消したいと思ったことはない。 「叶うかは別として、願ってみるのはどうかな」 排除を願う…確かにいなくなれば、この苦しみから逃れられるかもしれない。 けれどもし望んでしまえば、私も同じになってしまう気がした。 自分のために、優越感に浸るために。 危害を加えることに喜びを感じる者にはなりたくない。
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