1.挫折しちゃった

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1.挫折しちゃった

「頑張ってきたつもりだけど、上手くいかなかった」  父の前で彼女は、消え入りそうな声で呟いていた。無念の思いを込めて。  生きていて、何かに挑戦して、失敗をしたことのない人はまずいないことだろう。  その時人は考える。  なぜ上手くいかなかったのか?  果たして、どうすればうまくいったのか?  自分に、一体何が足りなかったのか?  何が悪かったのか?  人は常に反省し、分析を行い、上手くいかなかった原因を探る。  それから、新たな訓練や学習によって状況の是正を図り、またやり直す。  その繰り返し。  けれど。数えきれない程の努力と労力を費やして、それでも尚、上手くいかなかった場合は、さてどうするか?  考えられる選択肢はいくつかある。  挑戦を諦める。……断念するという重たい選択も、時としてしなければならないものだろう。  彼女は今、そんな心境だった。 「お父さん」 「うん」  ――御厨(みくりや)みのり。そんな名前だからか、彼女のあだ名はみみちゃんだった。  彼女は現在小学四年生で、お父さんと二人で暮らしてる。アイドル志望の、元気いっぱいな女の子だ。  けれど今、みのりはかなり落ち込んでいた。  その理由は簡単。  養成所に所属して、日々レッスンに励んでいるのに、オーディションにひたすら落ち続けてしまっているのだ。それこそ、心が折れてしまうくらいに。 「あたし……」  そのことをお父さんこと、御厨源三郎(みくりやげんざぶろう)氏に告げようとしているのだが、なかなか言葉が続かない。  自分が情けなく思えて仕方がないのだ。
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