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こんな片田舎にも梅雨がやってきた。梅雨前線の影響でしばらくはぐずついた空模様となるでしょう、と、朝の天気予報で言われていたのを思い出しながら、僕は自転車を車庫にしまった。それからいつものように家の玄関に向かって歩いていた時だった。家の前にある池のほうから、少女のような高めの声がしたのだ。
「もしもし、そこの方! わたしに気づいて頂戴!」
僕は足を止めて、池のほうに視線を向けた。池とは言っても大した大きさではなく、苔むした大きめの石に、直径四十センチメートルほどのくぼみが出来て、そこに水が溜まっているという具合だ。水中ではいつものように、数匹の赤い金魚が泳いでいる。しかし一匹だけ、こちらに向かいながら水面近くを漂っている。他の金魚たちと異なり、緋色のひれが半透明の羽衣のようにひらひら揺らめくのが印象的だ。にもかかわらず、僕は今までこの金魚を、この池で見た覚えがなかった。
「こっちよ、こっち! ああ! ようやく気づいてもらえた!」
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