神はどこまで我々を試すのか

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神はどこまで我々を試すのか

 大昔に誰かが言った。  雨は神様のおしっこだと。  大人たちは子供の戯言だと笑った。今やほとんどの自然現象は現代科学で既に証明されている。雨もそうだ。  そう、神界の門が突如現れるまでは、誰も神様の存在を信じていなかったのだから。  神の存在が証明されたことにより、様々な事実が覆され、様々な謎が解明された。  雨は神界から放射状にまき散らされる。なぜ、おしっこなのに放射状にまき散らされるのか?  答えはいたって簡単、神様の下半身は、皮をかぶっていたのだ。 これも、新たな発見と言えるだろう。  神界カメラから情報が入った。  神が難しい顔をして腹部をさすっている。腹痛の合図だ。  監視員が即座に報道部隊、災害対策部隊に告げる。 「神の便意発生!繰り返す、神の便意発生!直ちに全住民に避難の手配を!」  災害対策部の人間が地方の支部に指示を拡散する。 「予想災害度60!予想災害度60。住民は直ちに地下シェルターへ避難を!」  報道部隊が各テレビ局、ネットワークサービス会社に情報発信を指示。 「日本全国の住民、避難完了です!」  部隊員の男が部隊長に告げる。 「うむ、では次に建造保護対象物の防衛に移れ!」と部隊長。 「世界遺産、重要文化財等、下降します!」  部隊員がレバーを引く。世界遺産や重要文化財である建造物などが轟音を立てながら地下へと沈んでいく。 「文化財、退避完了です!」  直後、監視員が叫ぶ。 「大変です!腹痛の波が来ました!」 「なにっ!?想定より5分早いぞ!陸上、海洋生物、の保護はまだか!?」 「もう間もなく避難完了、推定5分!」環境保護部隊員が答える。 「くっ…間に合ってくれ…。人と建物が残っていても、他生物がいなくなっては人類は終わりだ…」  避難完了のランプが点灯と同時に、環境保護部隊員が声を上げる。 「避難完了しました!」 「監視員、あと何分だ!」と部隊長。 「あと1分きりました」 「よし、すべての非難は完了した。神界の門開け!」 「はっ!」  天空に大きくそびえる装飾の施された門は地球の半分ほどの大きさを誇る。  ゆっくりと門が開き、虹色の波を打つ空間が門の表面に現れる。 「カウントダウン!10、9、8、7…」  部隊長の額から汗が滴る。顎を伝い、ぽちゃんと足先に落ちた瞬間だ。 「ぐぉぉぉぉぉおおおおおぉぉぉぉぉぉおおおぉおぉぉぉおおぉおぉぉ!」  神の雄たけびが全宇宙に響いた。空間が揺れる。 「くるぞ!」  部隊長に合わせて、各部隊員が叫ぶ。 「消臭剤、放射!」 「消臭剤、放射!」 「消臭剤、放射!」  全国各地の地中からホースのような管が現れ、真っ白な粉末を吐き出す。  同時に、神界の門から突風のような気体がとてつもない勢いで放出され、地表に向かって迫った。 「気体発射!固形物は確認されません!おならです!風速およそ秒速800m!」  部隊員の報告に部隊長は唾を飲む。 「もちこたえてくれよ…!」  ブーーーーーーーーーッ!!!!  とてつもない突風が地表のありとあらゆるものを引っぺがしていく。木が根こそぎ飛んでいく。海水が塊となって飛ばされる。  木星の大赤斑とは比べもにならない高気圧の渦が生まれた。 「よかった、おならだけか…」  部隊長が一息ついたのも束の間。 「へぶしっ!!」  突如神がくしゃみをした。 「部隊長、くしゃみです!」 「なにっ、おならとくしゃみを同時にだと!?」  神のくしゃみに呼応するように、地上に雨雲が集まる。轟音を立てながら稲光が雲間に見える。そして、巨大な落雷が世界各地に降り注いだ。 「サンダースコールだと!?」  おならのガスに雷が反応、大爆発が地表を包んだ。まるで巨大隕石が各地に降り注いだように、無数の大爆発が起きる。 「部隊長、これは予想外です!地下シェルターが耐えれたとしても、地上は火の海です!」 「くっ…人類はここまでなのか…」  部隊長が涙を流し諦めたその時だ。監視員が声を上げた。 「こっ、これは!?」  慌てて巨大モニターに神の様子を映し出す。さらに地上ではいまだに曇天が晴れない。 「ど、どういうことだ…これはいったい?」  先ほどまで腹を抱えてうずくまっていた神が立ち上がり、腰を前に突き出す」 「こ、これは!」  神は手を前に当て、快感の雄たけびを上げた。 「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ~~~」  大きく燃え盛る地表に、神のおしっこが降りそそいだ。その聖水は地上の炎を沈め、蔓延したガスを落とし、失った海に再び命を宿した。 「き、奇跡だ…。神がまさか、おならとくしゃみとおしっこを同時にするだなんて…」  部隊長はあまりもの神々しさに感涙と失禁。俗にいう、神の連れションと呼ばれる現象だ。  部隊長だけではない、各部隊員たちも神の連れション現象を起こしている。 「地球は守られた!ばんざーい!」 「ばんざーい!」 「ばんざーい!」  皆、拍手喝采。狂喜乱舞。  すると、部隊長の横で事象の行く末を見守っていた事象記録員が言った。 「部隊長、ひとつ気になったのですが…」 「なんだ、どうした」 「今、記録を確認してみたのですが、神のおしっこが、実に400年ぶりなんです。過去に、100年ぶりにだしたおしっこは2年間降り続けています…」 「…つまり、どういうことだ?」 「このおしっこは、少なくとも8年間は降り続けることに…」 「な、なんだ…と…」  地上の雨がやむことはなく、世界は水没した。しかし神が与えるのは試練だけではない。人類が水中で生きるのに適した進化をしたのはまた別のお話。   神は創造と破壊を司る。人間は創造の恩恵を受け進化と繁栄を繰り返してきた。人類に残された課題は、破壊から身を守る術を見つけることだ。  しかし、破壊の裏側にこそ、進化への鍵が隠れているということを、我々は歴史の中から学ばなくてはならないのだ。
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