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柘榴のように
「聞いた? 隣のクラスのやつ、はじけたってさ」
朝のショートホームルームのあと、そのまま自分の席で座ったままの俺の隣に、千賀がやってきた。
この頃になると、クラスの四分の一くらいは人がいなくなっていた。いない、というのは、自主休校も含めてということだけれど。
外ではじければ、ニュースに名前くらいは出る。でも自宅や病院だったりすれば、いつの間にかいなくなっているって感じだ。親しいヤツなら、あの日からって憶えているんだろう。けれど、俺にとって、クラスメイトとして以上に親しくしていたやつらじゃなかったから、本当に「いつからか」いなくなってたって印象しかない。
はじける。誰が言い出したのか、件のH2Mrウイルスに感染したひとの末路をそう呼ぶようになった。
俺が実際に目にしたのは、あの電車の外からだけだ。でも、それを聞いたとき、何の違和感も覚えなかった。
まるで柘榴だ。硬い皮の中にあるキラキラしたあの粒みたいに綺麗ではないけど。ぷちぷちと汗腺から現われる紅い珠。酸素を求めて開いた唇は紫なのに、真っ赤な舌と頬肉がさらけ出され、涙腺からも鼻からも耳からも、とにかく体中の穴からあふれ出す。その様子を。
的確に表しているなと、すとんと心に落ちてきたんだ。
「マジかー」
軽く相槌を打ち、わけもなくトントンと教科書とルーズリーフを手に持ち角を揃えた。
「いよいよここにも入ってきちゃったかな」
千賀はその席に居座るつもりなのか、ちゃっかりと勉強道具一式を机に置いている。
その席もいつからか空席だから、別に構わないんだろうけどさ。おまえの席は一番前だろうが。
後ろがいないのをいいことに、千賀は大きく椅子を引き、体ごと俺のほうに向いている。
「なあ、旬」
ニュースを告げたときとは全く異なる温度の声音に、俺は千賀へと視線を遣った。
切れ長の目が少し伏せられていて、今まで一重だと思っていたのは奥二重だったと判明した。男の顔なんてそうマジマジと見ないから、自分の発見になんだかどきりとした。もれなく全員がマスクをしているから、その下のパーツは確認できない。
「――なに」
いつになく間をとる千賀につられて、神妙に問う。
合わせた視線が絡み、互いに探るように無言で見詰め合う。短くも長い数分が過ぎて、チャイムが千賀の膝を黒板に向けさせた。
「昼休みに」
小さく告げられた声に、俺はこくりと頷いた。
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