君に溶けて

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 風が強いな、上手く録れてるといいんだけど。  聞こえますか、僕は今空の下にいます。えー幸せです。  すごく気持ちいいです。  遮るものなんて何にもない。ものすごく広い。  こんなにも美しいものがあるなんて知らなかった。  君は知っていましたか?  いや、知らないな。知った気になっている人は数え切れないほどいるけど、知っている人は数えるほどしかいないと思う。  僕は知らなかったよ。見上げればこんなに近いのに、本当に遠くて高いんだって実感する。  うん、すごく遠いんだ。  薄オレンジに染まる雲が。  反対にはまだ青を広げる紺が。  こんなに広いんだね。  君に見届けて欲しかったとも思うけど、それは流石に贅沢かな。  本当に、君と一緒に見たかった。  これから君の新しい人生が始まります。好きなことをして、やりたいことに必死になって、メチャメチャ嫌なことがあって、それを超えるような嬉しいことがあって。  そういう人生を生きて欲しいです。なんて、何言ってんだろ僕。  もう一回言います。僕は今空の下にいます。君と同じ空の下にいるんです。窮屈さなんてどこにも感じない。  今思えば、一緒に帰った時も僕は空と君ばっか見てたけど、君は下を向いていた気がします。  一度ちゃんと空を見てください。この世界は、こんなに広い。窮屈さなんて吹き飛ばして、自由を感じてください。    そうだ、昨日は答えられなくてごめんね。  えーと、なんだ、自分で言うのって恥ずかしいな。  その、僕も好きです。っていうか結構前から好きでした。  ……それじゃあ。
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