0人が本棚に入れています
本棚に追加
「……あ?」
男は間抜けな顔をしている。
叫ばれてはいけない。僕はそのまま男を蹴って家の中へと入った。
「お邪魔します」
自分の状況を確認して、やっと男は叫びだした。扉を閉めておいてよかった。
「あああああ、いてえ、いてえ! なんだこれ、くそくそくそ、なんだよこれえ!」
「あんたさっき、僕に何も出来ないって言ったよな。出来るよ」
男は置いてあった固定電話を倒し、廊下を這って僕から離れていく。
僕は歩いて男に近づく。
「くんな、くんなよ! くっそ、誰か助けろよ畜生! あああ、血が、俺の血がこんなに出ちまった。くそがああああ」
こんなので君の窮屈が消えるかは分からないけど――
「なあ、出来るんだよ。あんたを殺すことくらいなら、何もできない僕にだって出来る」
――君に自由を。
そのまま僕は男の上に乗り、刺した。刺して刺して、気が付いたら男は動かなくなっていた。
「はは、やった」
達成感なのか勝手に笑いが出てくる。変な感じ。
感情と同じように、鮮やかだったり、暗めだったり、そんな赤色が、男から零れる。
少しの間、その場で立ち尽くしていたが、のどが渇いたので少し家を探してみた。
居間らしき部屋に冷蔵庫があったので、男をまたいで冷蔵庫を開けた。
「お茶だ。もらおう」
コップに注ぎ、ぷはっと一息。
緊張の糸が切れたように体が震え始めたが、しばらくしたら震えは止んだ。
頭の血がスーッと引いていくのを感じる。ふと、姉さんのことを思い出した。今なら、僕の人生は意味があったと言える気がする。
「……独占欲、なのかな」
自己中で、自己満足な独占欲。
横たわる男を見ると、どこか穏やかな顔をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!