君に溶けて

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「……あ?」  男は間抜けな顔をしている。  叫ばれてはいけない。僕はそのまま男を蹴って家の中へと入った。 「お邪魔します」  自分の状況を確認して、やっと男は叫びだした。扉を閉めておいてよかった。 「あああああ、いてえ、いてえ! なんだこれ、くそくそくそ、なんだよこれえ!」 「あんたさっき、僕に何も出来ないって言ったよな。出来るよ」  男は置いてあった固定電話を倒し、廊下を這って僕から離れていく。  僕は歩いて男に近づく。 「くんな、くんなよ! くっそ、誰か助けろよ畜生! あああ、血が、俺の血がこんなに出ちまった。くそがああああ」  こんなので君の窮屈が消えるかは分からないけど―― 「なあ、出来るんだよ。あんたを殺すことくらいなら、何もできない僕にだって出来る」  ――君に自由を。  そのまま僕は男の上に乗り、刺した。刺して刺して、気が付いたら男は動かなくなっていた。 「はは、やった」  達成感なのか勝手に笑いが出てくる。変な感じ。  感情と同じように、鮮やかだったり、暗めだったり、そんな赤色が、男から零れる。 少しの間、その場で立ち尽くしていたが、のどが渇いたので少し家を探してみた。 居間らしき部屋に冷蔵庫があったので、男をまたいで冷蔵庫を開けた。 「お茶だ。もらおう」  コップに注ぎ、ぷはっと一息。  緊張の糸が切れたように体が震え始めたが、しばらくしたら震えは止んだ。  頭の血がスーッと引いていくのを感じる。ふと、姉さんのことを思い出した。今なら、僕の人生は意味があったと言える気がする。 「……独占欲、なのかな」  自己中で、自己満足な独占欲。  横たわる男を見ると、どこか穏やかな顔をしていた。
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