君に溶けて

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 なんで生きてるんだろうって考えは、生きてる人皆が持つべきだと思うんだけど、こんなことを言うと「思春期だね」とか「若いね」とか言われる。  それってどうなんだろう。歳をとると生きてる意味を見つけることが出来るのだろうか。それとも、生きてる意味を探さなくなるんだろうか。  それって生きてるとは言えないんじゃないか?  目の前のこの人もそうだ。進路相談とか言ってるけど、ただ当たり障りない話をして終わらせたいんだろう。実際は生徒が何をしたいとか関係なく、ネームバリューのある大学に進学させて学校の評判を上げたいんだろう。  その考えは分かるけど、そんなあからさまに面倒くさそうな顔を生徒の前でするのはどうなんだ。 「どうすんだお前もう高校三年の秋だぞ、進学しないと社会で生きていくのは大変だぞ」 「はあ、そうなんですか」  進学進学って、進学しないと人間じゃないみたいな言い方だな。 「やりたいことを見つけて、そのために人生を使いたいですけど」 「若いな、世界を全然知らないやつの発言だ。他の生徒を見てみろ、みんなちゃんと進学に向けて受験勉強してるぞ。お前はどうすんだ」  世界を知ったら、進学して就職して社会に出るって考えしかできなくなるんだろうか。世界って小さいんだな。 「……考えておきます」    あの先生はきっと生きてる意味を自分で分かってないんだろうな。 まあ、そんなの僕にも分からないけど。  放課後の廊下は橙色だ。壁、階段、廊下、空気の全てをその色で覆っている。 放課後って無性に切なくなるよな。これも若いからなんだろうか。  僕が通う高校は一応進学校ということになっている。実際は僕みたいな落ちこぼれもいるんだけど。  名門大学に進み、大手の会社に勤め、人生を終える。今の社会、それが正しいみたいになっているけど、僕にはどうも窮屈に感じる。  これも思春期特有の考えなのかもしれない。大人に成ったらそれが正しく思える日が来てしまうのかもしれない。  階段の手摺を撫でながら下の階に向かう。橙はやがて音もなく顔を赤くする。その様は、ゆっくりと校舎を燃やしていくようだ。  上履きから靴に履き替え、河川敷を歩いて帰っていると、数メートル先にうちの学校の制服を着た女生徒が歩いていた。よく学校で見かける後ろ姿。 「清水さん。君も今帰り?」    女生徒清水明香里は僕を見て微笑む。彼女とは時間が合った時はたまにこうして一緒に帰る。  お互い友達がいないから、少し親近感がある。友達が出来なかった奴は、同じく友達が出来なかった奴と仲良くなるのかもしれない。    類は友を呼ぶ。なんて素敵で、悲しい言葉なのか。
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