君に溶けて

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  「ええ、竹田君も今帰り?」 「うん、進路相談があってね」  黒髪のショートで、日本人離れした綺麗な顔立ちに大きな目。宝石でもはめ込んだのかと思うくらいに夕焼けをうつしている。よく見ると、少し青っぽさもあるけど、どこかのハーフなのかな。 「そうなんだ」 「清水さんはこんな時間まで何してたの」 「図書室にいたわ」  黒髪の少女が図書室ね、似合いすぎな気がする。 「ねえ竹田君、あなたは進路どうするの」 「ああ、それ。僕はまだ決めれてないんだよね。なんていうか、自分がやりたいことも見つけてないのに、将来を見据えて進路を決めろなんて無理だよ。清水さんは決めたの、進路」  大きな橋を渡って対岸へと進む。 「まだ決めてないわ」 「そうなんだ、なんか意外。清水さん頭良いから」 「勉強が出来るだけよ、頭が良いわけじゃない。竹田君の方が頭がいいと思うわ、私なんかよりずっと人間らしい」  首をかしげる。そんな言い回しをしてる時点で、僕からしたら頭もよく見えるんだけどな。  少し進んで彼女が問う。 「竹田君は窮屈に感じたことない?」 「窮屈って、何を?」 「人生とか、世界とか、社会とか」   随分壮大だな。 「まあ、あるけど。窮屈だし、退屈だなって」  清水さんが足を止めた。僕も足を止める。  橋から川を見下ろす彼女の横顔は、遠くを望んでいた。 「私ね、いつも考えてるのよ。窮屈な今を壊してくれる何かが起こるのを」  確かにそれは考える。それだけで人生が百八十度ひっくり返ってしまうような、劇的な何か。  視線を彼女の顔から川に落とす。僕にはただ水が流れているだけにしか見えないが、彼女には何か見えているのだろうか。僕は視線を上に向けて空を眺める。 「驚いたよ、清水さんもそんなこと考えるのか」 「考えるわよ」    どうやら学校屈指の成績を持つ彼女も、思春期を謳歌しているらしい。  素晴らしきかな窮屈な青春。 「私は自由が好き、自由に生きなきゃなんのために生まれてきたのか分からない」  ドラマの決め台詞みたいに吐いて、彼女はまた歩き始めた。  僕も二、三歩後ろをついて歩きだした。橋を渡り切る前に、もう一度川を覗き込んだ。    校舎に続いて、川も赤く燃えていた。
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