君に溶けて

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 家に帰ると静かなものだった。 明かりもついてないし母さんはもう寝たらしい。 「清水さん、あんなところで何してたの。もうとっくに終電もないのに」 「……朝の七時頃には帰るつもりだった」 「そっか。とりあえずお風呂入ってきたら? 突き当りにあるから」  家出る前にお風呂沸かしておいてよかった。  とりあえずやかんを火にかける。 「……ありがとう」  そよ風ほど小さな声だ。  なんだか別人みたい。  一緒に帰った時の彼女はもっと自分を強く持っていたように見えたのだが、もしかしたら天気が悪くなるとそれに伴って彼女の元気もなくなるのかもしれない、なんて。  リビングでお湯を沸かしながら外を眺める。 「……雨、強いな」  どうしてあんな時間に、駅前のベンチにいたのか。  気になることはいくつかあるけど、聞いていいのか分からないし、そんなに踏み込むべきでもない気がする。  お湯が沸いて少しして、清水さんが戻ってきた。 「お風呂ありがとう」  グラビアアイドルなんて目じゃない。  湯上り黒髪美少女ってこんなに素晴らしいのか。最高だ。 「気にしないで」  清水さんを椅子に座らせる。  僕が置いておいた上下のグレーのスウェットを着ている。こういう時は大きめの白シャツって相場が決まってるのかもしれないが、あいにく大きめの白シャツは持っていない。  不謹慎かもしれないけど、非日常な感じがして少しワクワクする。 「紅茶でいい?」 「いいわよそんな、悪いわ」 「お湯沸かしちゃったし、捨てるのも勿体ないからさ」  僕一人で飲むには少し量が多いしね。 「……ありがとう」  紅茶を二人分入れて僕も椅子に座った。 「何も聞かないのね」  お風呂から上がったばかりでまだ彼女の頬はうっすらとピンク色だ。 「聞いてほしいなら聞くけど、あんまり無理に聞くもんじゃないかなって」 「竹田君って冷たいのね。学校での姿とは全然違う」 「誰だって学校と普段では違うよ、生活だって、顔だって。気を悪くしたなら謝るけど」 「いえ、そうよね、良いと思うわ」  僕は紅茶を一口飲んだ。ちょっと蜂蜜が欲しくなった。 「そういえば竹田君はあんな時間に何をしてたの?」 「……僕は、雨が降ってたから外に出たくなって」 「どういうこと?」  彼女は首をかしげている。  まあ、そんな反応になるよな。 「僕にも色々あるんだよ。そんなこと言ったら清水さん、君だってあんなところで何してたの?」 「あら、聞かないんじゃなかったの?」  この女、良い性格してるな。 「そうだった、今のは忘れてくれていいよ」 「嘘よ、言うわ。というより、そうね、私が聞いてほしいだけかもしれない」  なんだか、やっと僕が知ってる清水さんになったきた。風呂は心の洗濯だな。  僕は台所から蜂蜜を持ってきて、机に置いた。
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