君に溶けて

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   電車に乗り、二つ隣の駅に向かう。  目的はあの男、こと清水さんの現在の父親。自分の娘になった子に手をだすくそ野郎だ。  昨日清水さんは七時頃には帰るつもりだと言っていた。つまりその頃には彼らは家から出てるってことだろう。その前に用事を済ませたい。  昨夜あの蜂蜜紅茶の力で聞き出した住所をもとに清水さんの家に向かう。  駅から十分ほどのところ。大きな高層マンションの前にある、小さな一軒家。  随分と日当たり悪そうだな。  十五分ほど待っていると、扉が開いた。いかにもな風貌の色黒の中年男とキスを交わして、母親らしき女性が出てきた。自分の娘が一晩いなくなったっていうのに、暢気なものだ。 「あの、すいません」  しっかりと家から離れた駅の辺りで僕は声をかけた。 「なんですか?」  少しやつれたような顔をしているが顔立ちは端正で、大きな目をしている。 「清水さんで、間違いないですか?」 「そうですけど、あなたは?」  怪訝そうな顔。 「あ、突然すいません。僕は明香里さんのクラスメイトです」 「明香里の?」  なんだか警戒が強まった気がする。どんだけ娘のこと嫌いなんだ。やり直すなんて無理なんじゃないか、とも思ったが、それは事が終わった後で清水さんが決めることだ。 「僕、クラスの保健委員なんです、最近の明香里さん元気ないんですけど。何か知りませんか?」  保健委員なんて全くの嘘だが、こんなに娘のことを嫌ってそうな母だ、学校のことなんて知らないだろう。 「知らないわよ。体調でも悪いんじゃないの?」  この女、しらを切っているのか知らないけど、流石にそれはないんじゃないか。 「もう行っていいかしら、仕事があるんだけど」  自然と拳に力が入ってしまう。殴りはしないけど。 「ありがとうございました」  彼女はそのまま何も言わずに立ち去ろうとする。 「あの」 「なに? まだなにか?」  機嫌悪そうに振り向く。やっぱり一発だけ殴ってやろうかな。 「明香里さんは多分、誰よりもあなたのことを考えてると思いますよ」  大嫌いと、清水さんが言った中にあなたは入ってなかったんですから。  彼女は何か言っていた気がするが、僕は振り返らずにその場を立ち去った。 今のは確認だ。家も間違ってなかったし、何より男の顔が見れた。確認にしては最高の結果だ。  さて、確認したなら次の行動は決まってる。  僕はそのまま、清水家へと向かっていった。
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