約束の丘

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 乾いた心を砂漠に例えるのなら、オアシスはどこにあるのだろう。  失恋には恋愛。仕事には休み。そして渇きには潤い。でも欠けてるものを埋めるのは、そんな簡単じゃない。    「履歴は忘れずに消しておいてくれ」  最近では私を呼ぶ時「なあ」としか言わない男が、常套句を口にする。 「分かってる」  私はシーツにくるまったまま、シャツに袖を通す彼の背中に返事をした。  男は黙ってテーブルの上に一万円を置いた。  タクシー代には高いけど、奥さんと子供に対する負い目ね、と自答する。   彼と初めて関係を持った時、彼はタバコに火をつけて「愛してるよ」なんて吐き出した。  煙みたいに軽くて、簡単に消える言葉。  今はキスもしてくれない。  アイシテル。何度も裏切られてる、この世で最も信じられない言葉。 「だってあの人の心には奥さんとお子さんがいるんだから、あなたの入るスペースはないわよ」  親友の言葉を思い出す。分かってる。愛してほしいんじゃないの。満たしてほしいだけ。  男が背を向けたまま、ドアノブに手をかけて「また連絡する」とつぶやいた。  今日は四月一日。その言葉が嘘だとしても、「ええ、またね」私はそう返事した。    不純な恋をするたびに、ニキビも増えるし肌も荒れる。  私の名前は小鳥遊玲菜(たかなしれいな)。  大学を卒業後就職。実家を出てアパートに一人暮らし、満員電車に揺られる時間はスマホのアプリで時間を潰す、そんな普通の二十九歳。 「二十九歳って、『二重救済』とも読めるよな?」 「なにそれ?」  あたしは思わず苦笑した。
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