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作者殺し
「ねえ、リジスタンスって、聞いたことある?」
「えぇ? 何それ? 知らなーい。」
「わっ、それは危ないよ。」
「なんで?」
「リジスタンスって名前のキャラクターは、絶対に作っちゃいけないよ。」
「なんで?」
「作者殺しだから。」
「作者殺し?」
「リジスタンスに、殺されちゃうんだよ……。」
これは、そんな噂もつゆ知らず、リジスタンスを作ってしまったとある男性の物語である。
コンビニに足を運び、分厚いコミックを買って家で確認して、落ち込む日々。
「はぁ……やっぱ受かってないかー」
山村祐介はコミックをベッドに放り投げた。
「どんな話だったら賞取れるんだ……?」
そう言いながら手帳のページ一つ一つに字がびっしり書かれたネタ帳を見る。
「……サバイバルの話でも書いてみるか?」
キャラクター作りにペンを走らせる。真っ白いA4の紙。
「サバイバルナイフを持ってるコイツから逃げる学園もの……面白いそーじゃん。んで、名前は……」
今度は分厚い英和辞典を眺める。
「……リジスタンスにしよう! 日本語で反抗するって意味だし、深くて良いじゃん。」
描き上げたキャラクター。サバイバルナイフを持って、頭に赤いバンドを巻いて、半袖の黒いパーカー、キリッとしたややイケメンな目つき。綺麗に色鉛筆で描かれたそいつの名前は、「リジスタンス」。
「こいつは良いぞ。」
満足したとき、時計を見た。深夜3時。
「わっ、もう寝よ。」
真っ暗な部屋。祐介はコミックを放り投げたベッドで眠っている。
すると、紙がひとりでにうごめき、そこから何かが飛び出てきた。
それは、祐介が描いたまんまのリジスタンスだった。そいつはベッドで眠っている祐介に近づく。
「……コイツ、上手いこと俺を作り出したわけだ。」
サバイバルナイフを手に握る。
「俺の肩書きは作者殺しだ。だから作者のお前を殺す。」
そのとき。
ブーッ ブーッ
祐介の枕元に置かれていたスマホが鳴り出した。電話が来たらしい。
「んぁ……」
ぼやけながら手探りでスマホを探す祐介。リジスタンスは小さく舌打ちをして引き下がる。そのとき、ベッドの下がガラ空きだったことに気づき、しめたとばかりにそこへ潜り込んだ。
「……もしもし?」
祐介は何を思ったのか別室へと去って行った。
リジスタンスはベッドの下から出てきて、部屋を見渡した。テレビに小さな冷蔵庫、棚にはトロフィーや表彰状が置いてある。ポスターコンテスト最優秀賞の表彰状とゲーム大会の優勝トロフィーらしい。
「俺を作るクセに、こんなもん……可愛そうな奴だな。」
不敵な笑みを浮かべてぼりぼり頭をかく。
「今割ったって、どうせこの先生きられやしねぇんだ。」
トロフィーを前にしてナイフを掲げたそのとき。
「わ!? なにお前! え?!」
祐介が帰ってきた。その大声でリジスタンスも少し驚くが、落ち着いて喋る。
「俺の噂を知らねぇ不運な奴は、死んでしまう運命だよ……。」
「はッ……なんのこと………」
「俺ぁな……作者殺しっつー肩書きでな……ウワサがあんだ。リジスタンスという名のキャラクターを作れば、どんな姿をしてても、リジスタンスを作った作者を殺す。」
「う……うそ!? 俺、死ぬの!?」
「不運だな。来世は噂に耳を傾けな。」
リジスタンスは祐介をサバイバルナイフで切り刻んだ。
殺り終えたリジスタンスの背中は重く、何かたたずんでいた。
すると、急に後ろを振り向いた。そして、私を指さしてこう言った。
「お前も俺を作ったんだ……お前も死ぬべきだよな? ひまり。」
終
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