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私に向かって
どうしよう……。本当にどうしよう……。今日七夕だから七夕の竹を取りに行って竹林うろちょろしてたら遭難したよ……。幸い、お昼ご飯めっちゃ食べたからお腹空いてないし、さらにトイレ行きたいわけでもない。不幸中の幸いだけどほぼ不幸だよ……。とほほ……。
もう夜になってしまったよ。今年の七夕竹林遭難記念日とかめちゃめちゃ最悪じゃん……。もうやだ……。
とにかく「早く私を見つけてくれますように」って祈りまくろう。本当にお願いです織姫彦星……。
私は両手を組んで祈った。夜空は満天の星空。天の川も見える。田舎だからだ。都会じゃこんな景色見えない。
手を組んだまんま空をぼーっと眺める。……ここで死ぬのかなあ。もう夜だし、見つけるのは難しいし……。パンダにでも襲われるのかなぁ……。
…………んっ!?
今、流れ星降らなかった? わあこれはお願いするべきじゃ!?
うーん、もう一回降らないかなぁ……。
…………えっ!?
私は思わず目を奪われた。
流星群だ。しかもめちゃめちゃはっきり見える。まるで、星が降ってくるみたい。
……これじゃ願い放題だ。
私を見つけてくれますように、私を見つけてくれますように、私を見つけてくれますように………。
私はこれでもかというぐらい願った。空を泳ぐ流星群を見ながら。
まぶたの隙間から、光が入ってきた。
あれ、朝なのか?
私はよいしょと上半身を起こした。
「叶恵!」
わっ! お母さん! 待って、急に飛びついてきても。
「良かった……無事で良かった……。」
あれ? よく見たらお父さんもおっちゃんも、その他もろもろみんないるじゃん。
「いやー、竹林の中で転がってたから、死んでんのかと思ってヒヤッとしたよ。でも、寝てるだけだったからさ。びっくりさせんなよ、叶恵ちゃん。」
えええ!? 見つけてくれたの!?
「ありがとう!!! でも凄いねおっちゃん……」
「まあ、男のカン、てやつだな!」
そう言いながらおっちゃんはガハガハ笑う。
あっ! そういえば。
「お母さん、流星群凄かったよね?」
「流星群?」
お母さんはここでやっと離れてくれた。
「凄い、星が降ってきてるみたいで……」
「いや、降ってないと思うけど……」
え?
「流星群降ってないよな?」
「ああ、降ってないし、予告も無かったし」
え? うそでしょ?
「じゃあ、私が見たあれは……」
すると、お父さんが私の頭をなでてきた。
「きっと、織姫と彦星からの贈り物か何かさ。魔法のようなものさ。」
魔法……流星群……。
その語録を並べてみると、とても不思議で、素敵で、わくわくしてきた。
「ロマンチックねえ。あ、そうだ。昨日飾れなかった短冊、飾りましょ。あなたを見つけ出した後、やっと竹を持って帰ってきたんだよ。」
あ……ずっと、探してくれてたんだ……。
「ありがとう……。本当にありがとう。」
私の目から、涙が降ってきた。
昨晩の流星群は、私だけの、私に向かって降られた星だった。
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