巷に雨が降るように

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「アタシさー昨日シムタクに告っちゃったんだよね〜!」 自称、親友のマリアの無邪気な物言いに、私は絶句した。 シムタク…クラスメイトの志村拓哉の渾名。 無言の間が続く。 女生徒二人だけ、居残りになった教室の窓からは薄暗い鈍色の空が見えた。 いつの間にか強く降り始めた雨の音が響いている。 私の心を代弁する様に。 「どしたん?あーやっぱり高台に住むお嬢様には庶民の恋心なんか理解できないかーそ〜だよね〜でもでもね!あいつ満更でもなかったよ!うつむいて2回うんうんって言ってからありがとうってさ…」 彼のその癖は知っている。毎日観察していたから。困った時の彼の癖。 真顔で目を見開いている私の様子に気付きもせず、マリアは続ける。 「聞いて聞いて!今週の日曜、デートの約束取り付けちゃった〜何着てこ?やっぱ年頃の高校生にはエロいので決まりかな〜童貞を殺す服とか!」 「へえ…」やっとの生返事を返す私にマリアは続ける。 「あー瑠璃はお嬢だから分かんないか〜つまりね…」 あけすけな話題をまくしたてる茶色い唇。 歳不相応なルージュが上下している。 耳に入るのは更に激しさを増した雨音。
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