ギュッてして

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ギュッてして

 ベッドは1番気を遣うと言っていたから、ここでは伊織と繋がるなんて出来ないだろうと諦めていた。 「っ……伊織、あ……んん……っ」 「ん、……可愛いっすよ、晴弘さん……すげぇ好き」  ふかふかのベッドに厚めのタオルケットを敷いて、その上で俺達は服も着ずに抱き合ってキスをする。  伊織は俺の肌を片手で執拗に愛撫しながら、俺の中からローションにまみれたゴム付きの指を抜く。  それから目の前で次の準備をする伊織を見上げては、俺も深呼吸をして早まる気持ちを落ち着かせていた。  ……なんか、旅行の時よりも緊張する。  俺はドキドキとうるさい心臓の音に呑まれないようにと、その口を開いていた。 「い、伊織はさ……」 「ん?」 「俺の事、本気なのか?」  こんな事を言えばまた彼を怒らせてしまうのは目に見えている。だけど俺は三十路のオッサンであり、一方の伊織は、まだまだこれからの二十歳(ハタチ)なのだ。篠崎が言っていた通り、これから先、捨てられる可能があるのは俺の方であるのは間違いない。  今を楽しむのが二十歳(ハタチ)の醍醐味だが、三十路の俺は今よりも、どうしても先の事を考えてしまう癖があったのだ。  ……俺って、もしかしなくても重い、よな。こんなイケメンに相手してもらえるだけでもラッキーなのに、この先も全部俺のものにしたいとか、知られたら絶対に引かれる自信はある。  そんな不安が顔にも出ていたのか、伊織はそれを払拭するかのように俺の頭を撫でてくれる。 「……本気っすよ」  その瞳は、純粋な真実だけを映していた。 「俺、これでも晴弘さんには沢山甘えてるんで。俺が自分を偽らずにさらけ出せるの、もうこの世にアンタただ1人なんじゃないかって、本気で思ってるくらいにはマジだから」  伊織は俺の太ももを撫で上げると、準備の出来たソレを解した中へと挿し込む。 「……俺の本性こんなに引きずり出したの、アンタが初めてっすよ」 「ん……ぁあっ!」  熱く太い杭が俺の中を埋める。ソレで擦られるとやはり初めは痛くって、でも、しばらくするとその痛みにも慣れて、だんだんと声が甘くなってしまうのだ。 「ふ、あ、あっ!ぁあ……や、んん……っ」  こんなだらしの無い声、我慢しようにも気持ち良過ぎて自制が出来ない。まだ伊織とするのは2回目なのに、彼は既に俺の気持ちのイイところを全て把握しているようで、そこを的確に攻めて来るのだ。  奥を突かれる度に余分なローションが溢れ出して、俺達の接合部を濡らし繋ぐ卑わいな音が鼓膜に纏わりついて離れない。  俺は揺さぶられる身体をどうにかしたくて、伊織の方を見上げた。 「い、伊織……っ」 「……なに?」 「んぁっ……あ、……ギュッてしても……いい?」  伊織を抱き締めたい。甘えたい。もっとこの存在を感じたい。  すると一瞬だけ動きを止めて、伊織はその身を屈めてくれた。 「ん、どーぞ」  グッと近くなった距離に、俺の好きな伊織の匂いが鼻をかすめる。  俺は両腕を伸ばして彼の首に巻き付けると、頬同士がくっつくまで抱き寄せた。  ……やっぱり、こうやってくっついた方が多幸感が増すような気がする。  好きという感情が、心の奥底からどんどん湧き上がって来るのが分かる。  伊織は再び腰を振ると、俺の耳や首筋を舐めては、どうやら同じ事を考えているようだった。 「……っ、晴弘さんのニオイ……すげぇ好き……ん、……シてる時にギュッてすんの、ヤバイっすね」 「んんっ……俺も……好きぃ……ぁあ!」  こんな時ばかりは、年上とか、プライドとか、本当にどうでもよくなる。好きな人に愛されているという事実だけがただただ嬉しくて、俺はより一層胸が締め付けられる想いだった。  そんな夢見心地な俺を更に快楽の波に晒そうと、伊織は俺の背中に腕を入れては抱きかかえる。そうやって身体を起こされても下は繋がったままだから、もっと奥へと硬い竿が当たるので、堪らず腰を引きそうになっていた。 「ぅあっ!ちょ、伊織……そんなんしたら!」 「……すっげぇキツイ……っ、晴弘さん、逃げないで」 「そ、そんな事言われても……んぁあ!ぐ、グリグリすんなぁ!」 「だってすげぇ締め付け……無理。気持ちいい」 「も、あっ、やだぁ……っ」  腰を持ち上げられ、伊織の上に座らされてしまう。そうする事によって彼の眼前に俺の薄っぺらい胸が晒されて、器用にも、伊織は俺の尻を両手でもみしだきながら上の口で胸の突起に吸い付いて来るのだ。  俺自身、彼のソレが欲しくて腰を揺らしているのだから人の事は言えないのだが。  弾む腰がムズムズと快感に痺れて、俺は伊織の頭を抱え込むようにして髪に指を絡ませていた。 「……あ、あっ、ぁあっ……きもちぃ、伊織!」 「ん、……俺も……っ」 「んん、んあっ!も、イきそう……っ、まえ……、前もさわって……っ」  張り詰めた竿を揺らしながらそうおねだりすると、伊織は返事の代わりに右手でソレを握り込む。そして先走りを垂らした怒張をクチュクチュと上下に擦り、後孔の中も一気に攻立てられる。 「あ、あ、あっ……それ、きもちぃ!や、もぅイきそぅ!んああっ!」 「くっ……!」  擦られてイった中が痙攣し、伸縮を繰り返す。その圧に伊織もイったのか、脈打つ血管が直接中から伝わって来ていた。  ……ゴム、してるのにすっごく熱い。中に出されてるみたいだ。  俺は呼吸を整えながら伊織に力無くもたれかかり、だけどやっぱり彼はせっせと俺の出した精の後始末を始めていた。ちょっとだけ甘い雰囲気にそぐわないと気持ちが冷めそうになったのも束の間、伊織は俺の身体をベッドへ下ろし寝かせると、すぐに新しいコンドームを用意し始める。 「……っえ、伊織?なにやって……」  俺の問い掛けに、一連の作業の手を止める事なく彼は澄まし顔で言う。 「なにって、決まってんじゃん。2回目、シねえの?疲れた?」 「へ?や、あの……疲れたって言うか、イったばっかりなんだけど……」  恋人の下半身を見て、俺はビクッと軽く引いてしまった。 「……い、伊織さん……元気過ぎじゃありませんか?」 「そぉ?普通だと思うケド」 「え、そうなの?普通?……………そっかぁ、普通かぁ……あっはははは。……普通って、なんだろうな」  現実から逃れるように目を反らしてみるが、そう簡単に逃避できるはずも無く。  伊織が俺の頬を指先で撫でるもんだからそちらへ目線を戻せば、優しい瞳が細められて、色っぽい唇が笑みの形を作っていた。 「……なんか……酔ってないのに、晴弘さんと一緒に居るとアンタを汚したくなる」 「え?」 「俺の手でアンタの全部に触れて、知って、愛して……俺色に染めたいっつーか、晴弘さんを独り占めにしたいってのが、1番近いのかな」  過激な口説き文句に真っ赤になりながらも、俺はその低く穏やかな声色に聞き入ってしまっていた。 「……マジでアンタ、俺の運命の人なのかも」 「!?」  運命。それは、俺がいつか伊織に掛けた言葉。  ……そ、そんな事言われたら……拒むなんて出来ないじゃんか。  俺は恥ずかしくて嬉しい気持ちを心の中で思いっきり暴れさせ、また止まらなくなった“好き”に、無様にも溺れそうになってしまっていた。 「お、俺も……伊織が運命の相手だって、信じてるから……」  伊織が今だけでなく、これから先もずっと俺と一緒に居てくれるのなら……。  俺はニヤけてしまいそうな顔を隠すために、伊織を抱き寄せてはその好意を受け入れる事にしたのだった。 「……その、お手柔らかに、お願いします」 「ん、任せて下さい」  優しい声。優しい温もり。優しい愛撫。優しい時間。  俺は伊織の運命なんだと、心も身体も幸せな気持ちに満たされていた。
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