認めて下さい

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認めて下さい

 外見同様、家の中も立派なものだった。天井は高いし、物は綺麗に整理整頓されてるし、なにやら賞状やトロフィーが沢山飾られてるしで、俺の実家なんかよりかなり生活水準が高そうで、変な緊張さえしてしまう。  そんな中、俺達が通されたのはとにかく広いリビングだった。大理石と思しきアイランドキッチンがあり、4人掛けのテーブルがあり、少し離れた場所にはこれまた大きなソファとローテーブルがある。  そこに、白髪交じりの初老の男性が座って新聞を読んでいた。初めは伊織のおじいちゃんかな?とも思ったが、彼が「父さん」とその人を呼ぶので、俺はビクッと身体の筋肉が強張るのを感じた。  ち、父親だったのか。声に出して確認しなくて良かった。  それでも、母親に続いて父親の登場である。また同じような反応をされたらどうしようかと心臓をバクバクさせていたが、伊織の声に振り返った父親は、眼鏡の奥の瞳を細めて、とても優しそうで穏和そうな顔をしていたのだ。 「おお、伊織……久しぶりだね。おかえり。急にどうしたんだい?」  新聞を畳むと、立ち上がってこちらを向く。そして俺を見るやいなや、友達かい?と聞くのだ。  そんな当たり前の反応に、しかし伊織は静かに首を横に振り、今度は真面目な顔で言う。 「違うよ。……俺の大事な人」  その言葉にドキッとしたのは、俺だけではないはずだ。  とりあえず座って話しをしようと、伊織の父親は優しい笑顔で言ってくれた。その言葉に甘えて伊織と並びソファに腰掛けると、テーブルを挟んで向かい側に彼の両親が座る。華ちゃんと真琴ちゃんはキッチン側の椅子に座って、2人は2人で別の話しを始めていた。  俺は緊張のあまり固唾を飲み下し、頭の中は混乱でパニック寸前だ。  この状態ってなんなんだろう……結婚?の挨拶では無いし、付き合ってますって言った後は、なにを話せばいいんだ?将来を誓い合った仲です?息子さんを僕に下さい?  まずはどこから話したもんかとキョドっていると、伊織が先に話しを始めた。 「父さん、母さん……それから晴弘さん。先に言っとくケド、俺が勝手にこの場を設けたから。だから、まずは俺の話しを聞いて欲しい」  親の前では、伊織の言葉遣いも少しはマシになるらしい。こういう家柄だからか、やはり教育はキチンとしている証拠か。  俺も疑問符を浮かべながら、何を話すのかと彼の言葉に耳を傾けていた。 「……知っての通り、俺は潔癖症で他人を受け入れられない。触れられたくもないし、触れたくもない。それでも完全に1人になる事が出来ないのは……その、心のどっかで、寂しいって思ってたからだと思う」  伊織は俯きかげんで、それでも俺の手を握りながら続ける。 「でも、晴弘さんは違った。俺が初めて自分から触りたいって思った人だし、触れてみて、やっぱり俺にはこの人しかいないなって思ってるから。だからこの人と付き合ってるし、ちゃんと好きだから」 「……伊織」  その本心に、俺はちゃんと伊織の覚悟を見られた気がした。  彼もちゃんと俺の事を欲してくれているんだ。相手は男なのに、年が離れてるのに、俺しかいないって思ってくれて、こうして親にも会わせてくれて。  ……俺も、伊織の気持ちに応えなきゃ。  握られた手にギュッと力を加えると、伊織は顔を上げて俺の方を見る。少し長めの前髪からは不安げな瞳が覗いていたが、目が合うと、安心感と優しさに和らぐのが分かった。 「……俺、晴弘さんと同棲したい。俺はまだ学生だし、家賃もマンションの名義も父さんに甘えてるから、今日はその話しをしに来たんだ」  視線を俺から両親へと移し、俺にも提案をするように、それを口にする。 「本当は大学を卒業するまで同棲はしないって晴弘さんに言われたんだケド……そこまで待てる気がしないから、今ここで、3人を説得しようと思ってる」 「伊織、アナタなに言って……」  母親は異論を唱えようとするが、隣りに座っていた父親がその膝に手を置いては彼女を制していた。  俺も一応、自分達の事だからと責任を持って聞く事にする。 「……学費の奨学金は俺が必ず返す。家賃も、晴弘さんが一緒に住んでくれれば半分は出す。バイトも続けるし、家事全般も俺がするから……だから、どうか俺と晴弘さんの同棲を……仲を認めて欲しい」  頭を下げ、伊織はお願いする。  年下の恋人にここまで言われて、黙って見ている程俺も落ちぶれてはいない。  俺も一緒に頭を下げてから、目の前の御両親に本音をぶつける。 「俺からも、お願いします。伊織にはいつも俺の方がお世話になっていて、彼には甘えている部分も多く、俺の方が年上なのに頼りないって思うかもしれませんが……俺には伊織が必要なんです。これは、本当です」  2人がどう思うかは分からない。でも、俺も伊織との仲を認めてもらいたいと本気で思っているから。 「伊織はまだ学生だから、同棲は早いって思ってました。でも、改めて彼の気持ちを聞いて、俺も出来る事ならもっと早くに一緒になりたいと思ってます。……勿論、家事を全部彼に押し付ける気はありません。俺が、ちゃんと勉強を一番に優先させます。だからどうか、俺達の仲を認めてくれるだけでも」  同棲を許してもらえなくても、これだけ伊織に本気なんだという事は知っていてもらいたい。  と、やはりすぐには納得出来ないのか、母親が眉根を寄せては腕組みをして見せるのだ。 「……あなた達が本気という事は分かりました。でも、どうして一緒に住まなくちゃいけないの?どうせ結婚なんて出来ないのに、男と同棲なんて」 「おばさん!それは違うよぉ!」  そう言って話しを遮ったのは、華ちゃんだった。
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