認めて下さい

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 彼女は椅子から立ち上がると、母親に向かって可愛らしく一生懸命に訴え掛けるのだ。 「ハルちゃんは良い人だし、いおりんとの相性バッチリだと私は思ってるもん!いおりんが同じ人とずっと一緒に居るの、私初めて見たよ?いおりんが好きになった人がたまたま男の人で、でも、結婚が出来ないからずっと一緒に居る為に同棲するんじゃん!」  それにはずっと黙っていた真琴ちゃんも賛成なのか、意外にも、俺達のフォローをしてくれる為に口を開いた。 「……お兄ちゃん、この前私の頭に触ったの……多分、その人のおかげだと思う」 「真琴まで……なにが言いたいの?」  母親の険しい顔が真琴ちゃんを睨む。それでも彼女は目を背けつつ、思ってた事を伝えてくれる。 「……お母さん、お兄ちゃんの潔癖症が治るようにってずっと色々してたじゃん。でも、全部空振って私まで潔癖になっちゃうし……。そんなお兄ちゃんが、だよ?他人に触れるのが嫌だったはずなのに、それが、その人と一緒に居る事でちょっとは治ってんだと思う……けど」  真琴ちゃんはそれだけ言うと、母親の視線から逃げるように顔を反らしてはスマホをいじる。  だけど、そこまで真琴ちゃんに言ってもらえて俺も嬉しかった。彼女には嫌われてると思っていたから、それも含めて安堵する。  俺も頭を上げては、母親を説得する為にももうひと押しだととある提案を口にする。 「……俺も彼も、今はお互いに想い合ってますが……、もし伊織が別れたいと言ったその時は、俺は潔く身を引きますから」 「っ晴弘さん!?なに言って」 「だからどうか、俺達の仲を認めてください」  伊織を手放したくないのは本当だ。でも、親が息子の将来を心配しているのなら……俺は……。  すると、今度は父親が微笑んでは母親の腕を突いて言った。 「ほら、母さんも気付いてるだろ?伊織の手」  手?と思い、俺もそちらへと目を向ける。  話しをしている間、俺達はずっと手を繋いでいた。あまりにも自然と繋いでくるもんだから、俺も気にはしていなかったが……どうやらそれは、昔の伊織を知っている者からすれば驚きの光景だったのだろう。  母親も何かを言いかけたが、それを見ると肩の力を抜き、ため息を吐いてはソファへ深くもたれかかった。 「……分かったわ。あなた達の仲は認めます。同棲も……まぁいいでしょ」 「!ありがとうございます!」 「でも、伊織が勉学を疎かにしたり、なにかあった時はあなた達の意思とは関係なく別れてもらいますから」 「はいっ!」  認めてもらえたっ!嬉しい!  俺は満面笑みで伊織を見たが、彼はどこか腑に落ちないのか、あまり嬉しそうな顔はしていなかった。それどころか握っていた手さえも離されて、そっぽを向かれてしまう。  あ、あれ?なんで?なんで怒ってんの?なんかまたマズい事でも言ったかな、俺。  とりあえず俺は、彼の両親へ改めて挨拶とお礼を言ってから、伊織と共に柴家を後にしたのだった。  後で華ちゃんに聞いた話。  伊織の父親は日本人とイギリス人のハーフらしく、つまり、その子供である伊織と真琴ちゃんはクオーターというものらしかった。だから髪色が茶色なのは染めたのでは無く、元々の遺伝なんだとか。彼の父親が白髪混じりで年がいっているように見えたのも、異国の血が混ざっているから、らしい。  なんでこんな話しを俺にしたのか華ちゃんに尋ねれば、彼女は可笑しそうに笑っい「だって、いおりんがおじさんを父さんって呼んだ時、ハルちゃん変な顔してたから」と教えてくれたのだった。  俺は恥ずかしさで赤くなるも、伊織の事をまた1つ知る事が出来たと、心がくすぐったくて嬉しかった。
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