教えろよ!

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教えろよ!

 もうすぐ今年も終わってしまう。  仕事の都合で実家に戻り、俺は毎日母親に見合いをしろと脅されていた。毎週のようにどこからともなく見合い写真を持って来てはすすめてくるので、それにウンザリしながらも夜にこっそりと伊織と電話で話すのを心の支えにしていたのだ。 『……で?今度はなんて言って断ったんすか?』 「……目が母さんとそっくりだから、恋愛の対象にはならないって……そしたら見合い写真で頭ひっぱたかれた」 『あっははははは!』 「笑い事じゃないっつの。あの見合い写真入れてるヤツ、意外と頑丈に出来てんだよ」  俺はベッドに仰向けに寝転びながら、電話の相手にそんな愚痴をこぼす。  伊織と離れてだいたい2ヶ月半。毎週末、夜になるとどちらからともなく電話を掛けては身の回りの事を報告しあっていた。  話す内容は、俺はだいたいいつも仕事や両親の愚痴ばかり。一方の伊織は、週末に行われる課長主催の飲み会での、倉持部長と篠崎の進展状況をこっそりと観察しては教えてくれていたのだ。俺的にはそれも楽しみの1つであり、いつもワクワクしながら電話をしていた。 「それで、今週の2人は?なんかあったか?」 『そっすね……あ、そう言えば、飲み会途中で2人、こっそりと抜け出してましたね。行き先はまぁ、知らないっすケド』 「マジか!?篠崎のヤツ、俺になんにも教えてくれねーんだもん!……そっち帰ったらすぐに問い詰めてやる」 『ふふっ……あんまイジメないであげなよ。かわいそうっすよ』 「そんなん知るか!」 『えー。アンタ、優しい先輩なんだろ?後輩には優しくしないと』 「アイツが優しくされるような事をしないから、俺も優しくしない」 『なんすか、それ。……晴弘さん、マジで子供みてぇ』 「誰が童顔だ!俺は立派な大人だぞ!」 『誰もそこまで言ってねぇ!』  ケラケラと笑う声が、俺を和ませる。  ああ……伊織とこうして話してる時が一番心休まる。つーか会いたい。触りたい。抱いて欲しい。  俺はゴロゴロと寝返りを打ち、ふと、壁に掛かっていたカレンダーに目をやった。もうすぐ1年が終わる節目の時期だが、俺はその日が早く来ないかと、1日が過ぎる度にソワソワとしていたのだ。 「……なぁ伊織、本当に大丈夫なのか?」 『ん?なにが?』 「飛行機だよ。……年越し、こっちに来て一緒に過ごすんだろ?」  潔癖症の伊織にとって、公共の乗り物は天敵と同じだ。それでもこっちに来るには乗り物が必須であるから、時短で飛行機を選んだ訳で。  そう聞くと、伊織はまた笑って俺をからかう。 『アンタ、それ聞くの何回目?とうとうボケたんじゃねーだろうな?』 「なっ、失礼な!そんなジジイじゃねーし!子供の次は年寄り扱いかよ!」 『ははははっ!』  嘘ウソ、ごめんと彼は笑いながら謝り、今度は優しく甘えるように囁く。 『……晴弘さん、早く俺に会いたいんだ?すげぇかわいいっすね。俺も……早くアンタに会ってめちゃくちゃに抱き締めたい』 「っ!!」  伊織の声が、俺の脳に直接響く。顔も見えない状態なのに、最近はそれだけで身体が勝手に反応するようになっていた。  俺はスマホを枕元に置くとスピーカー設定にし、バレないように身を捻じっては下着の中に手を入れる。そして、半勃ちになっていたそれをズボンから出してユルユルと抜き始めた。 「……い、伊織も……俺に会いたいんだ?」  一度甘い声色で話し始めると、話題はいつもそっちへと勝手に転がってくれる。  俺はわざと煽るようにそう尋ね、彼の気を引く。すると案の定ノッて来てくれた伊織は、俺の好きな声で、エロい声で行為を促すような台詞を吐くのだ。 『……そんなん当たり前っすよ。アンタにどんだけ触ってないと思ってんですか。……俺がなにも気にしないで触れんの、アンタしかいないってのに。……あーあ、早く晴弘さんを抱きたい』 「そ、そんなに……っ、欲求不満なのか?」 『……そっすよ。アンタが足りなくて、毎日1人で抜いてんすから』 「っ!」  ピクッと、手の中で竿が持ち上がるのが分かった。  俺はもっと伊織を煽る為に、だんだんと言葉を大胆にしていく。 「ひ、1人で……って、どんなふうに?」 『どんなって……』  一度言葉を止めて、伊織は黙り込む。  それからすぐに俺の質問に答えるよう、事細かに色気たっぷりの声で説明を始めるのだ。 『……想像すんだよ。晴弘さんの狭い後ろの口に、俺の硬くなったヤツ挿れてさ、何度も熱い内壁擦んの。アンタの1番イイとこをぐりぐりってすっと、いつもキュウキュウに締め付けてくれてたから……俺、あれがすげぇ好きなんすよ。今じゃあ1番お気に入りのオカズ』    ……後ろの、熱い内壁……。  俺はもう片方の手を後ろへと回し、指を孔の中へツプリと入れる。そして、前を弄るのと同様上下に動かしては中を擦った。  だけどそれだけでは物足りず、すぐに指を増やしては再び伊織の声を求める。 「ん……ほ、他には……?」 『……晴弘さんさ、裏筋とかも弱いだろ?アナルの中を指で擦って、そんで、アンタの勃起した前を握って親指だけで浮いた血管撫でんの。で、たまに先端をいじめっと腰がひくついて、美味しそうに指を飲み込むんすよね』 「……っん……ぁ……!」  伊織の声を聞いて、言われた事をそのまま実践する。  指を3本に増やして前立腺を擦り、完勃ちした竿の裏筋を刺激してみる。と、伊織の言った通り腰がムズムズしては、指を咥えている後孔がひくついた。  ……なにこれ……1人でするより断然気持ちいい。  俺は開けっ放しになっていた口の端からヨダレを垂らし、スマホから聞こえて来る音声にのみ集中する。  途中から話す事さえ忘れて自慰行為に没頭してしまったが、俺が話す代わりに、伊織が沢山話してくれていた。 『……晴弘さんが中を締め付けてくれっとさ、俺も気持ちいいからすぐにイっちゃうんすよ。……晴弘さんも、俺に中出しされんの好きでしょ?いっつも俺を欲しがって中をキツく締めんの……すげぇエロくて好き』 「っ……ん!」 『中が締まると前立腺も圧迫されて、アンタも気持ちよくなってすぐにイくもんな。そん時の晴弘さん、トロ顔でマジかわいいから……もう好き過ぎてどうにかなりそうになる。……晴弘さんは?俺の事、どう思ってんの?』  指を激しく出入りさせ、感じる場所を執拗に擦り上げる。張り詰めた竿も先走りで濡れており、溜まっていた精が今か今かと待っていた。  俺はだらしなく喘ぎ、伊織への想いを吐露する。 「好き……っ、ん……伊織の事、愛してる……っ」 『ん、俺も晴弘さんの事、めちゃくちゃ愛してるっすよ。早くアンタを抱きたい』 「っ!!」  伊織の切なそうな最後の声に、俺は思わず感じてしまっていた。  自分の手で己を慰めて射精し、後ろに入れていた指をキュンと締め付ける。  俺はビクビクと腰を痙攣させながら、吐息と共に甘い声を漏らしてしまっていた。 「ぁ……伊織……っ、俺も早く……お前に抱いて欲しい……」  ……伊織の声だけで、イっちゃった……。まだドキドキしてる。  俺は指を抜き、ティッシュで拭いて後始末をする。  と、スピーカーを通して伊織の澄ました声が飛んで来た。 『……んで、オナニーは気持ち良かったっすか?晴弘さん』 「へっ?」 『すげぇエロいオカズ、ありがとうございます。俺も、今日はこれで抜いてから寝るわ』  俺はサッと顔色を変え、慌ててスマホを手に取った。  スピーカーに設定していたと思っていたが、どういう訳かテレビ電話になっていたのだ。  そこにはニヤニヤと下品な笑みを浮かべる伊織が映っており、心底楽しそうにからかって来る。 『晴弘さん、俺の声だけで感じてんだもん。しかもテレビ電話に気付いてねぇし……途中から手伝っちゃったじゃん。かっわいーんだ』 「は、はぁ!?そういう事はもっと早く教えろバカ!恥ずかしいじゃんか!」  時間も時間だし、大声は出せないから小声で怒鳴る。  俺の真っ赤な顔を見ては彼も満更では無いようで、テンパる俺を笑いながら更に追い詰めるのだ。 『なんで?すげぇ良さそうな顔してたのに……。でも、あんなん見せられたら、俺もますますアンタを抱きたくなった』 「!?」 『年末年始、いっぱいエッチしましょうね』  じゃあ、おやすみなさいと言って、伊織は逃げるように通話を切ってしまった。  俺は今だに赤い顔で恥ずかしさに悶絶しては、何も悪く無いスマホに八つ当たりとばかりに毛布をドサッと被せて、その上からパンチを繰り出す。  悪いのはスマホの操作を誤った俺か、それとも最後まで俺の過ちを黙って見ていた伊織なのか。どちらにせよ、もう取り返しがつかない黒歴史が出来てしまったのだ。 「〜〜〜っ!バカ伊織!マジでバカ!」  俺は羞恥の爆発と共に大きな声で叫んでしまい、1階で寝ていたはずの母親からうるさい!とクレームを受けてしまったのだった。それで我に返っては舌打ちをし、大人しく寝る準備をする。  ……やっぱりこれは、全部伊織のせいだ!  俺はさっさと部屋の電気を消すと、毛布を頭まで被ってはふて寝した。
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