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デート
待ちに待った年末年始。大型プロジェクトも順調に進んでおり、休みも問題なく貰える事に。
俺は空港まで車を運転し、ある人の迎えに来ていた。空港ロビーの大きな電光掲示板を見上げては、今か今かとそわそわしながら飛行機の到着時間を確認する。
やっと会える。この時をどれほど待ち望んでいたか。
何度も時計を確認し、ガラス張りの向こうにある手荷物受け取り所を凝視する。
そろそろ降りて来てもいい頃なのだが、まだ人影はない。
……早く会いたい。会ったらまず最初に、色んな事を謝らなくちゃいけないな。
約束を破った事。黙ってこっちに来た事。
電話では謝罪を済ませているが、やはり面と向かって頭を下げないと気が済まないのだ。
と、人がまばらに手荷物受取り所へと姿を見せ始める。
俺は目を凝らしては明るい茶髪の人を探し、思わず「あっ」と声を上げた。
……見つけた。やっぱカッコいいなぁ、俺の恋人。
背の高い、マスクをしていてもやたらと目立つイケメンがいた。彼は自分のキャリーケースを手に取ると、自動ドアを抜けてこちらへと出て来る。
「伊織!こっち!」
「!……晴弘さんっ」
名前を呼びながら手を振れば、伊織はすぐに荷物を引いて近付いて来た。
それから久しぶりに対面し、お互いに少しだけ照れ笑いを浮かべる。
「……無事に着いて良かった。……その……お疲れ様、伊織」
「ん。マジでちょっと疲れた……かも。……でも、アンタの顔見たら、なんかそれもどーでも良くなった」
伊織は頬を染めると、俺の頭を軽く撫でるのだ。
「……もっと晴弘さんに触りたいけど、今は我慢する。だから夜、いっぱい触らせてね」
「……分かってる」
久々の手の感触には俺も赤くなりながら、さっきの今で謝罪しなきゃならない事があったのも忘れて、伊織が側に居る幸福感にただただ満たされていた。
伊織を車に乗せた後は、軽く観光地巡りをした。天気も良かったし、得に海沿いの道路を走れば、伊織の目もそちらに釘付けとなっていた。
「海、キレイっすね」
「だろ?でもなぁ、やっぱ冬より夏の方が風情があって良いんだよ。空の色も違うし、空気も違う」
「へぇ……そんなもんなんすか?」
「当然!あ、ちょっと寄り道していいか?すぐ終わるから」
「もちろん」
海の見える道の駅に車を入れ、ちょっと待っててと伊織を残し1人で降りる。そして道の駅の売店で目当てのものを買っては、すぐに停めてある車へと戻った。
「おまたせ。……これさ、半分こにして食べようぜ」
「なんすか?それ」
紙袋を掲げて見せ、俺はホクホク顔で自慢する。
「地元産の焼き芋。ここの冬名物なんだ」
あ、これウエットティッシュな、と車のダッシュボードからそれを取り出し、伊織に渡した。
それから熱々の芋を素手で半分にし、1つを彼に差し出す。
「美味しいから、さぁどうぞ!」
「じゃ、お言葉に甘えて」
持ち手部分を新聞紙で包んでやり、手渡しする。
その時に伊織の指が少しだけ触れて、俺はドキッとしてしまった。
離れていた分、彼と触れあえる事が嬉しい。例えそれがちょっとした事であっても、だ。
「晴弘さん?」
「あ、いや……なんでもない。それより、熱いうちに食べよう!」
誤魔化すように顔を逸し、俺はもう半分の焼き芋を頬張ってその味に目元が緩めた。
「んー!やっぱ冬に焼き芋って最高だな!」
「甘っ……すげぇ美味いっすね、これ」
「だろ!?」
顔を上げれば、眼前には海も見える。こんなデートスポットみたいな所に2人だけで来るなんて、考えてみれば夏の旅行以来だった。
俺はチラリと助手席に座る伊織を見て、頬を赤くする。
寒さ対策と言っていたマスクも今は外されており、その口で、黄色い蜜がたっぷりの焼き芋を美味しそうに食べていた。もぐもぐと顎を動かし、咀嚼し、喉仏を揺らして口の中のものを飲み込んでいる。
……やっぱコイツ、すげぇエロカッコいいよなぁ。
伊織が隣りに居てくれるだけで、俺の心は満たされていく。だけど、時間が経つにつれてその安心感は欲情へと変わってしまうのだ。
ぼんやりと見惚れていると、伊織も俺の視線に気が付きコチラを見てくる。そして軽くキスをして来ると、笑って言うのだ。
「見過ぎ。あんま煽ってっと、マジ襲いますよ?」
「!?」
そんなの本望だ、とはこんな所で言えはしない。
俺より早くに焼き芋を食べ終わった彼は、俺の頬を愛しげに撫でながら「夜まで待ってね」と、食べてる焼き芋よりも甘い台詞を吐くのだった。
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