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イチャイチャ
実家は母親がうるさくて却下。温泉宿やホテルも何泊もは金銭的に無理だから却下。
俺は地元の友人に頼んで、その彼が所有しているコテージを借りる事にした。
「……本当にいんすかね?こんの立派なトコ……」
「いんだよ。冬は使わないって言ってたし、掃除は月1でハウスクリーニング入れてるみたいだから、中もめちゃくちゃキレイだぞ」
車で来たのは、緑豊かな自然に囲まれた、木造建築の2階建てコテージだ。
山の近い田舎では結構あるあるネタなのだが、金持ちでなくても先祖代々から山を譲り受け、所有している家が多い。ここもその1つであるが、コテージが建てられたのはまだ最近の事。
車から荷物を下ろし、2人でその中へと運ぶ。ここに来る途中スーパーで食材をたんまり買ったから、しばらくは山を下りないでもすみそうだ。
とりあえず玄関に荷物を並べて、俺は伊織に満面の笑みを向けた。
「伊織、先に風呂入るだろ?ここ、温泉引いてあるみたいだからさ、いつでも入れるぞ」
「温泉」
「おう!」
「……晴弘さんも一緒に?」
「え?えっと……」
それは、一緒に入る?というお誘いだろうか。
俺は一瞬迷ったが、久しぶりなんだからそれも良いかとすぐに頷いたのだった。
「……じゃあ、一緒に入るか」
ヒノキの浴槽に、源泉かけ流しの贅沢温泉。こんなのがタダで入り放題なんて、田舎ならではだろう。
「温泉、気持ち良かったっすね」
「本当だよ!俺、マジでここに住みたいわ」
「ははっ……いいっすね、それ」
まだ明るいうちから伊織と2人で風呂に入り、のんびりと湯に浸かっては色んな話しをした。これまで電話で話していた報告じみた内容ばかりだったが、やはり相手の顔を見ながら話すと、いつもの数倍は面白い話しに聴こえるのだから不思議だ。
俺達は風呂から上がると室内着に着替え、そのままリビングへと向かった。暖房設備も整っているから部屋は暖かく、俺は大きなソファに倒れ込んでは運転の疲れもあり、大きく伸びをする。伊織もすぐに夕飯の支度をするからとキッチンへ引っ込み、1人残された俺は、ちょっとだけ首を傾げるのだ。
……おかしい。一緒に風呂に入ったのに、伊織が手を出して来なかった。久々の恋人の裸だぞ?しかも誰も来ないこんな山の中で2人きりなのに……絶対におかしい。
俺が伊織の立場だったら、服を脱いだ時点ですぐにでも襲っているはずだった。
「……まさか、離れてる間に興味をなくした、とか?」
伊織の歳ではまだまだヤりたい盛りのはずだけど(俺がそうだったし)、久しぶりに恋人の裸を目の前にして何もして来ないのは少し意外と言うか、心外と言うか。ちょっと期待していただけに逆に恥ずかしい。
「……ふむ。早くも倦怠期か?いや、でも電話ではいつも抱きたいとかエッチしたいとか言ってたし……」
もしや俺が居ない間に、他に触っても平気な人が現れてそいつとイチャイチャしてたとか?いやいや、もしそうなら俺にわざわざ会いにこんな所まで来ないか。……じゃあなに?照れてるとか?
「まさか、ね」
そう考えると、理由はなんだろうか。
飽きられた?男は無理になった?まさか俺から加齢臭がするとか……。
「晴弘さん?どうしたんすか?」
「ぅわあ!ごめんなさい!嫌わないで!」
「は?」
寝転がっていたソファから飛び起きて、俺はリビングに戻って来た伊織に叫んでいた。
「……どうしたんすか、急に……」
「あ、なんでもないです。気にしないで」
それよりどうしたんだ?と笑顔で問い掛けると、伊織は眉を寄せながらも俺の隣りに腰掛けて言う。
「晴弘さんさ、晩ご飯、本当にいる?」
「へ?なんで?」
「いや、だってここに来るまでに色々食べさせてもらったから、俺は正直そこまで腹減ってないって言うか」
確かに、ここに来るまでは観光がてら、地元の名物やら何やらを買っては2人で沢山食べてしまっていた。
そう言われてみると俺もそこまでお腹は減っておらず、ガッツリ食べなくてもいいかな、なんて思ってしまう。
「そうだな。俺もそこまでは腹減ってないな……って、伊織?なにしてんの?」
人が話してる途中なのに、伊織は俺に覆い被さるようにして顔を近付かせて来るのだ。そしてそのまま抱き締められると、また首元で匂いを嗅ぐように深呼吸をする。
「んー……晴弘さんのニオイだと思って。すげぇ久しぶり……やっぱ甘い」
「え、そお?臭くない?」
「全然。つーか、興奮するし」
伊織のその言葉にホッと胸をなでおろし、俺は安堵の息を吐く。
良かった。まだ臭くはないみたいだ。
けれど、決して危機が過ぎ去った訳では無い。
着ていたセーターの中に伊織の大きな手が侵入して来ては、俺の背中を撫で上げるのだ。その感触に思わずビクンっと仰け反ってしまうと、調子を良くした彼は更にイタズラを仕掛けて来る。
「ちょ、伊織、待って……まだ早いって」
「早いって、なにが?」
言いながらも、伊織は俺の脚を引っ張ってはソファに押し倒す。
さすがにこんなところで致す訳にはいかないので、俺はのしかかって来る身体をやんわりと押し戻そうとした。
「こ、ここですんの?せめてベッドに行ってから……」
しかし、こんな時でさえ伊織は俺をからかうのだ。
余裕そうな笑みを浮かべると、彼は甘えるように俺の身体を弄り始める。
「なに?もうすんの?さっき早いって言ったの誰だよ」
「はぁ?だ、だって……っ」
え、なに?なんなの?
それでも尚、伊織は俺の素肌を撫で回しながら首筋や頬にキスをしてくるのだ。こんな目の回りそうな愛撫だけを繰り返されて、俺の理性がどこまで保つか。
俺はもどかし過ぎて、理性を保つ為にも口ばかりを動かしていた。
「伊織っ、もしかして酒飲んでる?」
「ん、飲んでねーよ……なんで?しつこい?」
「や、違うけど……っ、腰触んな、くすぐったい……っ」
「いーじゃん別に。久しぶりなんだからさ、もっと触らせてよ」
「ちょ、待てって、こらっ!はぅ……んっ!」
終いにはセーターを巻くし上げられて、あらわになった乳首に吸いつかれてしまう。
俺は出そうになる声を抑えるので必死になり、唇を強く噛み締めてしまった。だけどそれを見た伊織は、一度顔を上げると俺の前髪を優しくかき上げて至近距離で囁くのだ。
「……晴弘さん、声我慢しないで。ここには俺達しか居ないんだからさ……声、もっと聴かせてよ」
「んっ……」
「晴弘さん」
ダメだ。久しぶり過ぎてなんだか恥ずかしい。
頑なに俺が黙っていると、拗ねたのか、伊織は身体を起こして「なんだよ」と舌打ちしてしまう。
もしかしたら彼は、俺とただイチャイチャしたかっただけなのかもしれない。だけどこんな事をされて平気でいれる訳もなく、俺は涙目で彼の瞳を見上げるのだ。
「……っバカ伊織……こ、こんな事されて……我慢出来る訳ねーだろっ」
「!」
俺も男だ。好きな人に触られて、身体が反応しない訳がないのだ。
勃ち過ぎて痛い下半身を抑えていると、伊織も察したのか俺の身体を抱えて立ち上がった。それからリビングを足速に出て、2階へと続く階段を登りながら険しい顔で何やらブツブツと呟く。
「くそ……まだ触るだけのつもりだったのに……」
階段を登りきり、さっそく見付けた寝室へと入って行く。そしてそこにあった大きなベッドに降ろされては、上から伊織が覆い被さって来る。
俺は不安を隠せない表情で彼を見つめると、今度こそ唾を飲み込むのだった。
「……あ、あの……伊織……?」
「……アンタが悪いんだからな」
「へ?」
「アンタがカワイイのがいけない」
発情しきった眼差しで、伊織は再び熱い手で俺に触れるのだった。
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