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願いが叶った、という実感はない。全て神からの贈り物ではなく、自分の手で勝ち取った成果であるように確信していた。
15歳の夏前。僕はテュシアー島を離れ大陸に渡り、とある大国の外人部隊に志願した。
島を出ていくと両親に告げた日のことは未だに覚えている。
何も言われなかったのだ。
父はそっぽをむいたまま煙草に火をつけて、母は無言のまま貝を煮込んでいた。スープを食べている間、誰も一言も発さず、その後、僕もとうとう何も言わず家を後にして港に向かった。
コンクリート舗装の上を軍用ジムニーが走る。切れ目の上をタイヤが通過するために車体が上下に揺れた。船とはまた違った不快感で、まずは車酔いを克服するところから始める必要がありそうだった。
僕は助手席に座っていた。
ラジオから流れる無機質な声が、テュシアー島とは少し違ったイントネーションで気象情報を告げている。微妙に言葉を理解できず、辛うじて今夜が晴であるという部分だけは聞き取ることができた。
「なぁ、タッカーよ」運転している同僚のジムが、ハンドルを片手にラジオの音量をさげた。器用なものだ。
「お前の故郷には、6月と12月の1日に祭りはあったか?」
「……あった。とっても派手な、飲めや踊れやの宴がね」
島では見たこともない標識が窓の外を流れていった。買い方もわからない自動販売機が視界を過ぎ去った。小声で僕はつづけた。
「まぁ、僕は一度も参加したことないんだけど」
街の郊外は住宅もまばらで、芝生とも土面ともいえない広々とした土地が視界の奥まで続いている。この街の気候はどこかジメジメしていて、クーラーのきいていない屋外に出たくない。永遠にジムは運転してくれないかと思っていた。
「そうか」ジムの声は素っ気ないように努めている。その理由についてはどう思案しても考え至ることができなかった。
「どうして知ってるんだ?」
「この国でも同じように祭りがあるんだ」
「へぇ」僕は身を乗り出した。「どの国でも流星群に祈りをささげるのは同じなんだね!」
「流星群か……。そうか、流星群か」
「ところで、君はどこに向かっているんだ。何も知らされないまま車に乗せられたんだけど」
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