流星群が収束する地へ

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 半年に一度。  厳密には6月と12月の1(ついたち)。  空に一番近い鉄塔の頂上で、僕はいつも殴られた頬をさすりながら夜空を見上げている。その傷が煙草を捺された火傷のこともあれば、貝殻の破片を無理やり噛ませられて口の中が真っ赤な時もあるけれど、惨めな気持ちであることに変わりはなかった。  片足がなく戦争孤児だった父は強くなれと僕を痛めつけ、誘拐婚に正当な理由をつけるために僕を身ごもった母は「タッカー。あんたのせいで人生がメチャクチャなんだよ」と毎日声を荒げている。着ているバスケットチーム柄のタンクトップなんて浜辺に流れ着いた漂流物で、サイズも合わずワンピースみたいだと周囲にからかわれた。  貧困と呼ばれる家庭ではなかったが、精神は常に飢餓状態にあるのだろう。両親は、心にぽっかり空いた穴を僕の血や苦悶で満たすために僕を傷つけていた。小腹がすいたからと冷蔵庫に手をかけるかのように。  気がついた時からずっと変わらない生活であるために、苦しいという感情はすでに持ちあわせていない。いや、きっと記憶にないだけで、心から涙を流していた時もあったのだろう。繰り返す日々の中で苦しくない泳ぎ方を覚えてしまえば、溺れるための手段は忘れてしまえばよいだけのことだ。  そんな僕がいつも心待ちにしているのは、住んでいるテュシアー島で定期的に行われる宴だった。野球場のダイアモンドくらいはある広場に絢爛な飾りが供えられ、島の伝統料理を中心に大皿が立ち並ぶ。島中の人々が集まって酒を盛り、誰かが踊りを始めたら波紋のように一体感が広がって広場はダンスホールに早着替えしたりもする。  学校でつるんでいる友達もいるし、隣の集落のかわいい女の子も参加していた。だが、両親は僕がボロボロの状態で祭りに出すことをひどく嫌がっており――自分たちの世間体のためだろうが――、いつもより派手に痛めつけた後で家に居ろと玄関に鍵をかけられる。
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