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お互いに幸せになれる道を探しているだけでした
<麋角解>
きらきらと、朝霜が太陽の光に煌めく朝だった。足を下ろす度に、ぎゅっと雪が軋む。
はぁ、と零れた息は真っ白に凍って私の唇から飛び出していく。背中に背負った刀は、まるで羽の様に感じる。たくさん着込んでいるからかな、と思った。
「おはようございます」
そう言って私の事を通してくれる鬼に「こんなに朝早くからご苦労様です」と言葉を返す。
大きく聳そびえる、私が今抜けたばかりの門を振り返る。あの日、蘭と一緒に見上げたこの門。
私の、始まりの、場所。
ここを通るのもあと何回なんだろう、と思った。そう思って、少しだけ寂しくなる。誤魔化す様に胸に手を添えた。
朝が早すぎるからだろうか、まだ人のいない寮を、足音を立てない様に注意ながら歩く。自分の部屋に辿り着いて、鍵を差し込んだ。右に回せばガチャン、と音がして、鍵が開く。そのまま扉を開いた。
ふわりと懐かしい匂いが私を包み込む。8月に出て行った時のまま。
あの時は蝉がわんわん鳴いていたのに、今は虫の気配すらない。当たり前だ、もう年の瀬なのだから。
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