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「……貴方、如何して、こんなところに……?」
ここは鬼ヶ島だ。鬼子はともかく、鬼に見つかったら、人間なんて一溜りもないだろうに。
しとしとと降り続く雨に濡れそぼるその真っ黒な前髪を大きな手のひらでかき上げて、彼はそっと、私の問の答えを呟いた。
「……鬼ヶ島を見てみたかったんだ」
「は?」
「……僕は、鬼子に逢ってみたかった。話してみたかった」
馬鹿なのかな。この人。命の危険があるっていうのに、そんな理由でここまで来る?
「貴方、たぶんここに居たら危ないですよ。早く帰ったほうがいいと思いますけど」
思った通りのことを口に出せば、ぶはっと吹き出される。
何よ、忠告してやったっていうのに。
「いや、ごめん、ちょっと面白すぎて」
「何も面白くないんですけど」
仏頂面で食い気味に言い返せば、また面白そうにからからと笑う。
「だって、キミ、……僕が悪い奴だったら危険なのはキミなのに、よく他の人の心配してられるね? ご心配なく、いつもは変装してるから。今日は雨で染粉が落ちちゃったんだ」
ここまで話して、一気に気が抜けた。この人間は、私に危害を加える気など、全く持ち合わせていないらしい。
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