鬼と人が暮らしていました

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「じゃあ遠慮なく帰りますね」 「ちょ、ちょっと待って」 くるりと背を向けようとすれば、焦ったように背後に投げかけられる引き留めの台詞。 「僕、この先の洞穴にいるんだ。明日まではいるつもりだから、気が向いたら、遊びに来てよ」 「行きません」 「いや、キミは、絶対に来るよ」 「人間のところなんて、行きません」 「……僕の名は、桃」 その言葉に、思わず振り返ってしまった。 彼の漆黒と、私の琥珀が出逢う。にやりと弧を描く彼の唇。まるで火花でも散ったかのような衝撃。 「キミの、名前は?」 「…………」 無言で、背を向けた。 いや違う。私は、言葉が出なかったのだ。得意の憎まれ口を叩くことが出来なかったのだ。 ただ、雨に打たれる彼が、綺麗すぎて。 彼の魅力にあてられた、私の心臓が煩すぎて。
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