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「えっ、それ、」
「あ、ごめん、嫌だった? ちゃんと洗濯して、清潔にしてあるから心配しないで」
「いや、じゃなくて」
「ん?」
手当てをする腕を止めて、きょとんと首を傾げて彼は私を見上げる。「何が駄目なの?」とでも言うように、二重の漆黒で真っ直ぐ私を見つめた。その真っ直ぐさに、ドギマギとしながらも私は目を離すことが出来ない。
「あの、それ、貴方の手拭いでしょ、破いてしまって良かったの?」
「なんだ、そんなこと。キミは本当に優しいんだね」
ぷっと笑った彼は、その双眸でじっと私を見つめたまま、さも当たり前かの様に私に言う。
「手当てするって、言ったでしょ?」
「でも、」
私は鬼子で、貴方は人間なのに。
そう言おうとした唇は、水に手拭いを浸した時に、染粉が落ちて褐色に戻った指でそっと塞がれた。
「怪我してるのに、でももへったくれもない。勿論、人も鬼もない。怪我をしたら皆痛いし、同じように赤い血が出る。そこに違いなんて、」
漆黒に、強い光が宿る。
視線が、絡め捕られる。
どくん、と心臓が鼓動を打つ。
「……ひとつも、無いよね?」
「っ」
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