鬼と人が暮らしていました

22/47
前へ
/619ページ
次へ
「うん、貴方と同い年の」 「何て名前?」 「菫」 「小梅と菫? 絶対小梅と桃のほうが良くない?」 そんなくだらない会話をしていたら、あっという間に時間は経ち。 (からす)の鳴き声が辺りに響き、橙色の光が洞窟の中に差し込み始めた。気が付けばだいぶ肌寒くなってきている。ぶるっと震えれば、それに目ざとく気が付いた桃は、ちょうど干してあった羽織を私に手渡した。 「え、これ」 「貸してあげる、僕、あんまりノコノコ歩きまわれないし、送ったりできないからそろそろ帰りな」 「分かった」 萌黄色の羽織を肩からかけた私は、手拭いの巻かれた足で下駄をつっかけ、立ち上がる。 洞窟の入り口に立つ桃の横を通り過ぎた。そして、橙色の世界に一歩を踏み出そうとした。 「またね」 後ろから投げかけられたその言葉に、足を止めて振り返った。 仄暗い洞窟の中には、優しく笑う桃がいた。その笑顔に、思わず同じ台詞が、私の口から飛び出した。 「またね!」 足が止まってしまうほど、言葉が出てきてしまうほど、次を約束してしまうほどに。 それほどに、桃の傍にいる時間を、私は望んでいた。
/619ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加