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「そんなの、……間違ってるよ」
ぎゅっと握り締めた拳を振って、家を飛び出した。必死に昼間通った道を駆けた。寒さなんて、気にならなかった。
息が切れて、横腹が悲鳴を上げようとも、止まらずに走る。
「桃!」
真っ暗な道から、仄暗い洞窟に飛び込めば、焚火の周りで木箱を整理していた桃は、驚いて顔を上げた。柔らかな光の空間に一歩を踏み出した私は、耐え切れずしゃがみ込んだ。
「小梅? こんな時間に、どうし、」
「っ、お兄が、」
「小梅?」
「……お兄が、貴方を、」
「菫くんが、如何したの」
落ち着いて、とでもいうように、洞窟の入り口に座り込んだままの私に近づき、その背に腕を伸ばす。
そして、ぽん、とひとつ叩いた。
刹那。
ぱた、と液体が、私の手の甲に降ってきた。
ぬめぬめと光るそれは、どろり、と筋になって地面に吸い込まれていく。
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