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<鬼ヶ島に伝わる桃太郎の話>
昔々、あるところに、鬼ヶ島という島がありました。
島といっても、海水が引くと、地続きで本土に渡ることが出来る場所でした。
そこに住んでいたのは、身体の大きな鬼と、鬼によく似た容姿の身体の小さな人間でした。
おそらく、その二つの種族の祖先をたどれば同じなのでしょう。
鬼たちは、近くの村から物を盗んだり、食料を盗んだりしていましたが、それはすべて身体の小さな人間たちに分け与えるためでした。何故なら、鬼は、人間の血を呑まなければ生きていけなかったのです。
血を分ける代わりに、鬼ヶ島の人間たちは恩恵を受けていたのです。
ところが、ある日、鬼たちは、盗みをしているところを果華村の村人に見つかってしまいました。
逃げようとするも、運悪く、追い払おうと振り回したこん棒が、村人にあたってしまったのです。鬼は謝ろうとしますが、恐怖を感じている村の人間には、聞き入れてもらえませんでした。そのままでは殺されてしまうと思った鬼たちは、なすすべもなく鬼ヶ島へ逃げ帰ってきました。話を聞いた鬼ヶ島の人間たちは、鬼たちに、もう盗みを働くのはやめるように言いました。自分達はどうにか生きていくことが出来るから、と。
けれど、今まで食料などを育ててこなかった鬼ヶ島では、作物は育ちません。ひとり、またひとり、と人間は死んでいきました。鬼たちも、十分な血がもらえず、やせ細るばかりです。そのような現状に耐えられなくなった鬼たちは、また盗みを始めます。生きていく為に、悪事を正当化します。
ついに、「桃太郎」が鬼退治にやってきました。あっという間に鬼たちを根絶やしにし、鬼ヶ島の人たちが生きていく為の食料や宝を持って帰ってしまったのです。
鬼を殺された鬼ヶ島の人間たちにとって、桃太郎は恨み、憎しみの対象でした。
「自分たちは、鬼に生かされてきた――言わば、鬼子」
人間は、私たち鬼ヶ島の種族にとって、憎むべき存在であり、けして相容れない生き物です。
私たちは、人間とは違うのです。私たちは、誇り高き“鬼子”です。
信じられるのは、“鬼”だけなのです。
そうして月日は流れ――……
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