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「……桃?」
ぐらり、と桃の身体が傾いて、ドッ、と音を立てて私の横に倒れた。
「桃!?」
焚火の小さな光に照らされた桃の額には、ぱっくりと傷口が開き。
真っ赤な血が、流れ出していた。
え、何、桃が、……斬られた?
ハッとして、洞窟の入り口に目を向けた。そこには、
「……お兄……」
真っ赤に血濡れた刀を引っ提げた、私のお兄が立っていた。
「コイツが、小梅の言っていた人間だな」
そう言って、無慈悲に刀を振り上げる。お兄の腰に下がっている鞘の上には、見たことのある紅色の紋様が躍っていた。よく見れば、それは、護身用に家に置かれていた刀だった。
その形相は、いつもの優しいお兄の面影などひとつも無く、まさに――鬼。
「御免」
「駄目……!!」
お兄の刀が振り下ろされる直前、思わず、桃に覆いかぶさった。斬られた額からの血は止まらない。
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