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「どけ、小梅」
「嫌だ!」
「小梅!」
お兄が怒鳴る。恐怖で、涙が零れた。だけど、ぎゅっと目を瞑って、必死で、桃の身体にしがみ付いた。その褐色の身体を抱き締め続けた。
「……菫、くん?」
桃が、身動ぎをしながらお兄の名を呼んだ。
「桃!」
「……っ、如何して俺の名を、」
「小梅を怒らないで、あげて、」
ダラダラと血を流しながら、桃はそう言って、ふわりと笑う。
「全部、僕が悪いんだ、僕がこんなところにいるから」
そんな事、如何でもいい。お兄に怒られたって、構わないのに。
「桃、血が……っ」
「おっかしいなぁ……っ、止まらないねぇ」
青ざめる私に向かって呑気ににこりと笑った桃は、力尽きたようにぱたりと目を閉じる。
沈黙が、落ちる。
それを破ったのは、お兄が血しぶきを刀から払った、ぶん、という音だった。
大きな溜息を吐き、お兄はいつもの笑顔を見せる。だけど、その瞳は紅色のまま凍っている。
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