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「上出来。小梅、ありがとう」
そう言って、するりと立ち上がった桃。
「もう立って平気なの」
「うん、小梅が手当てしてくれたから平気」
さっきまであんなに血を流していたのに、何ともないようにテキパキと治療の片づけをする桃を見ていたら、徐々にその姿が歪む。
しゃくりあげる私に、驚いたように桃はこちらを見た。
「小梅?」
「桃が、死んじゃうかと思った……」
そう口に出したら、涙腺が決壊した。ぼろぼろと涙が溢れて止まらない。
「……桃、ごめんっ、……私、」
それから先は言葉にならなかった。ただ、嗚咽だけが喉を支配した。
言いたいことはたくさんあった。けれど、何が言いたいのか、誰に謝りたいのか、自分でも分からなかった。
優しい桃を、傷つけて。
優しいお兄を、怒らせて。
大事な二人を、戦わせて。
胸で渦巻く感情は、ひとつも出て来なかった。全部、透明な雫になって、瞳から転げ落ちた。
そんな私を温もりが包む。
「大丈夫、大丈夫」
その優しい声色に、余計に涙が止まらなくなった。
優しい匂いのする桃に、ぎゅっと縋りついて、涙が枯れるまで泣いた。
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