鬼と人が暮らしていました

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<みんなみんなさようなら> 朝、瞼の上にちらつく光と鳥の鳴き声で目を覚ました。ハッとして体を起こせば、私の身体には、萌黄色の羽織の代わりに、浅葱色の羽織がかけられていた。 私が起きたのに気が付いた既に起きていた桃は、いつもの様にそっと微笑んで、さらさらとしたお出汁に白米をいれたお茶碗を差し出した。 「ほら、朝ご飯……もうお昼頃だけど」 泣きながら眠ったからだろうか、酷く重い瞼を如何にかこじ開けて、ほかほかとあたたかな湯気をあげているお茶碗を受け取る。 「桃、大丈夫なの」 「大丈夫に見えない?」 額にそんな大きな傷を負っているようには全く見えない軽口をたたく桃に、ほっとして、その安堵のせいで、またじわりと視界が歪んだ。 桃に気づかれないように、俯いたまま、あたたかいお出汁をかきこんだ。
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