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「あと1週間で、菫もついに、“鬼”の仲間入りかぁ」
お父さんが、琥珀色の瞳を潤ませてそう言いながら、誇らしげに鼻の下を伸ばす。琥珀色の瞳を瞬くお母さんも、とても嬉しそうだ。
それもそのはず、この鬼ヶ島で“鬼”という仕事に就くことが出来るのは、僅かに限られた15歳以上40歳以下の男性のみ。
鬼という仕事は、憎き人間どもからこの鬼ヶ島を護る言わば国防のお仕事。
鬼になるためには、信じられないほど厳しい試験を潜り抜けなくてはならないのだ。
そして、合格したら、1年に1度、10日しか家には帰れない。
他の355日はすべて任務にあたるのだ。
「もう刀は貰ったのか?」
嬉々としてそう尋ねるお父さんに、お兄は首を横に振る。
ごくん、と飲み込む音の後に、「まだ」という返事があった。
“鬼”になると、特別に帯剣が許されるらしい。
そりゃそうか、丸腰でどう戦えっていう話よね。私は女だから、鬼になることはないし、詳しくは知らないけど、何だか武器にも色々な種類があるらしい。
二杯目のお茶碗を空っぽにしたお兄は、芋の煮付けのお皿と口を往復する私のことを横からつつきながら、嬉しそうな両親に向かって言葉を落とす。
「俺、立派にこの鬼ヶ島を護ってみせるよ」
そう言いながら、にっこりと笑ったお兄が、この家を出て行くのは4日後の4月16日。
奇しくも、それはお兄の17歳、私の13歳の誕生日だった。
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